欧米で実施されたランダム化比較試験(RCT)"PARADIGM-HF"とは対照的に、日本人収縮力低下心不全(HFrEF)に対するアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)の有用性は、必ずしも明らかでない。ACE阻害薬と比較したRCT"PARALLEL-HF"では、有意ではないもののARNi群で心不全増悪リスクの上昇傾向を認めた(後述)。
ではこれらACE阻害薬服用例をARNiに切り替えると、HFにどのような影響が現れるのか。そのような観点からも興味深い観察研究が8月26日、Circulation Journal誌に掲載された。著者は筒井裕之氏(九州大学循環器内科)らである。
オリジナルのPARALLEL-HF試験は、ACE阻害薬/ARB服用中の、左室駆出率「<35%」でNT-proBNP上昇を認める症候性心不全225例を、ACE阻害薬群とARNi群にランダム化し33.9カ月間(中央値)観察した二重盲検試験である。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・HF入院」リスクは両群間に有意差はなかったものの、ARNi群で高い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.09、95%信頼区間[CI]:0.65-1.82)。
今回の検討は上記の本試験終了後、ARNi服用の観察試験への参加に同意した150例中、観察期間中(平均1.6年間)に脱落しなかった124例である。
これら124例を対象に「ACE阻害薬→ARNi」変更群と「ARNi」継続群を比較した。
その結果、ACE阻害薬からARNiに変更しても、NYHA分類はほとんど変化しなかった。すなわち「ACE阻害薬→ARNi」変更群の90.9%でNYHA分類は「不変」、6.1%が「改善」、3.0%が「増悪」だった。
一方、「ARNi」継続群におけるこれらの数字は順に、90.1%、4.2%、5.6%である。
NT-proBNPは、ACE阻害薬からARNiに変更後2~4週間で有意に低下し、低下作用は12カ月後まで維持された。
一方、ARNi継続群のNT-proBNP値は、4カ月後より上昇する傾向が見られた。
これらの結果より筒井氏らは「ARNi長期服用は日本人慢性心不全患者の治療において良好なリスク・ベネフィット・プロファイルを示した」と結論している。
本研究はNovartis Pharmaceuticals Corporationから資金提供を受け、実施された。