へバーデン結節は,19世紀にヘバーデンによって報告されて以来,中高年女性の遠位指節間関節(DIP関節)に生じる変形性関節症としてよく知られている。近年ではその発症に関節症遺伝子や更年期などのホルモンバランスの異常の関与が示唆されている。
診断はDIP関節に限局する腫脹,疼痛やX線画像におけるDIP関節の変性所見により比較的容易である。症例によっては粘液嚢腫(mucous cyst)が生じ破裂と寛解を繰り返し,日常生活に支障をきたす症例も認める。
へバーデン結節に伴うmucous cystは,小さいものでは疣贅(いぼ)のようにもみえるため,皮膚科を最初に受診する方も多い。
へバーデン結節による腫脹や疼痛の原因は,局所での動静脈還流障害や,関節炎による水腫であると推測する。この状態を改善することが治療の目的となる。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は,桂枝茯苓丸に薏苡仁を合わせたものであり,瘀血の改善と利水効果があり,その目的に合う薬剤と考える。
へバーデン結節の愁訴は多彩である。前述のごとく腫脹・腫瘤を主訴とする症例だけでなく,手のこわばりや関節痛を主訴とする症例も多く存在する。表のように,身体所見や漢方的な特徴に応じて処方を決定すべきである。関節が熱感を伴って痛みを主訴とする症例では,まず清熱を目的として越婢加朮湯を処方し,後に薏苡仁湯に切り替えて処方する。
1日投与量は5.0gとすることが多い。手指の冷えを伴う症例に対しては当帰四逆加呉茱萸生姜湯や桂枝加朮附湯を桂枝茯苓丸加薏苡仁との合方にて処方することもある。
高齢化社会になりへバーデン結節の愁訴で受診する方は増加している印象がある。漢方治療はそのような方が日常生活を快適に送るための一助となる。