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韓国における三日熱マラリアの流行[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(15)]

No.5188 (2023年09月30日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2023-10-02

最終更新日: 2023-09-29

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●マラリアとは1)

マラリアは,蚊(主にハマダラカ)による感染症です (蚊媒介感染症)。マラリアは世界中の熱帯・亜熱帯地域 で流行しており,2022年12月に公表されたWHOの最新の世界マラリア報告書によると,2021年の1年間に約2億4700万人が感染し, 推計61万9000人が死亡して います。新型コロナウイルス感染症による渡航制限が解除された結果,世界におけるマラリアの年間死亡者数と感染者数も増加しており,今後注意が必要な状況です。

ヒトにマラリアを起こすものは5種類あります。熱帯熱 マラリア原虫(Plasmodium falciparum ), 三日熱マラ リア原虫(P. vivax ),卵形マラリア原虫(P. ovale ),四 日熱マラリア原虫(P. malariae ),サルマラリア原虫(P. knowlesi )です。日本で輸入感染症として診療する中で 頻度が高いものは熱帯熱マラリアと三日熱マラリアで, 重症度が高いものは熱帯熱マラリアとサルマラリアです。 一般的な潜伏期間は約2週間前後です。古典的な症状は 発熱・脾腫・貧血ですが,不眠,関節痛,筋肉痛,下痢, 腹痛といった非特異的な症状に注意が必要です。

マラリアの診断方法のgold standardは血液塗抹標本を染色し,光学顕微鏡で検査する形態学的診断法になります。しかし顕微鏡検査での診断精度は,検査者の経験と技量によるところが大きいため,日本では現時点で未承認ですが,特異抗原検出用キットなども使用されています(15分程度で迅速診断が可能)。治療は,非重症マラリアはメフロキン, アトバコン・プログアニル合剤, アルテメテル・ルメファントリン合剤で行います。三日熱・卵形マラリアではプリマキンによる根治治療が必要 となります。重症マラリアは熱帯病治療薬研究班保管薬 剤のキニーネ注射薬で治療します。

マラリアは感染症法の4類感染症であるため,確定患者,無症状病原体保有者,死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出る必要があります。

●韓国における三日熱マラリアの流行2)

もともと,韓国はマラリアの発生国(特に地方)ですが, 2023年7月29日時点で合計417人が報告され,前年同期(190人)の2.2倍に増加しました。いずれも三日熱マラリアです。報告数が多い地域は,京畿(62.4%),仁川 (15.1%),ソウル(12.5%),江原(3.8%)です。これらの状況を受け, 韓国疾病予防管理センター(CDC)は8 月3日に,全国にマラリア警報を発令しました。これにより,マラリア感染リスクを減らすため,危険地域の自治体では,媒介蚊の吸血源となる畜舎に蚊捕獲機を設置し,周辺の草むらに対する殺虫剤残留処理など防蚊対策が強化されました。また,危険地域の住民と旅行者には,媒介蚊に刺されないように夜間活動を自粛し,長袖・長 ズボンの着用と忌避剤を使用し,就寝時には防虫ネット(蚊帳)を積極的に活用するよう要請しました。

●マラリアの感染対策は防蚊対策と予防内服!

マラリアの感染対策の原則は防蚊対策です。特に,マラリアを媒介するハマダラカが活動する夕暮れから明け方にかけては,長袖・長ズボンを着用し,できる限り肌の露出を少なくします。虫よけスプレーやローションとしては,濃度の高いディート製品(濃度30%),イカリジン製品(15%)の使用が推奨されています。さらに,マラリア流行地へ渡航する際は,抗マラリア薬の予防内服を行うことが望ましいです。

【文献】

1) 国立感染症研究所: マラリアとは. (2023年8月21日アクセス)

2) 韓国CDC: マラリアの流行. (2023年8月21日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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