・「心臓の構造的なあるいは機能的な異常によって生じる症状や徴候がある状態」であり,かつ「BNPの上昇」や「心臓由来の肺うっ血や全身うっ血の客観的な証拠」があるもの。
・生命予後改善,症状改善,運動耐容能改善,心不全増悪に伴う入院回避,左室リモデリング抑制が挙げられる。
・うっ血や低心拍を改善させるような,いわゆる「目に見える治療」を提供することと,左室のリモデリングや生命予後の改善をめざした「目に見えない治療」を提供することを並行して進める。
・ACE阻害薬/ARB→β遮断薬→MRA→AR NI(ACE阻害薬からの切り替え)→SGLT2阻害薬,という順序での投与が推奨されている。
(1)標準治療薬を選択する際の注意点
・どの薬剤を使用するか:β遮断薬,MRA,ARNI,SGLT2阻害薬の4剤すべてを使用すべきである。
・どのような順で使用するか:標準治療薬4剤をできるだけ早く投与することが推奨される。ガイドラインに準じた順番で使用することを原則とする。症例ごとに血圧,心拍数,心房細動の有無,腎機能を考慮しながら薬剤を選択する。
・どの用量で使用するか:できるだけ最大用量を選択する。
(2)標準治療薬投与後の薬剤の選択
・症状に応じて,ループ利尿薬,イバブラジン塩酸塩,ベルイシグアト,ジギタリス製剤を適宜用いる。
・HFmrEF患者の左室収縮能は低下していると考えられる。
・HFrEFの標準治療が同じように有効である可能性がある。
・SGLT2阻害薬が初めて,HFpEF患者の心血管死および心不全入院を抑えることが証明された。
・ACE阻害薬/ARB,ARNI,MRAはLVEF 55%以下では有効であるため,HFpEFの一部には有効である可能性がある。
・心拍数が速いとき以外は,β遮断薬は推奨されない。
高齢化が進み,それに伴い心不全患者が増加しており,医療現場を逼迫しつつある。日本の人口動態統計(2021年)によると,心疾患は悪性新生物につぐ2番目の死亡原因であり,その中で心不全の関与は大きいと考えられる1)2)。日本において,1回入院した心不全患者は1年後に20%が死亡し,33%が死亡あるいは再入院となる。心不全入院をいかに予防するかが,循環器医のみならず,一般内科医,かかりつけ医においても近々の問題となっている。
心不全の問題点は,「心不全」と言ったときに想起する患者像が異なりすぎることである。日米欧で心不全の定義が統一され1)3),「心臓の構造的なあるいは機能的な異常によって生じる症状や徴候がある状態」であり,かつ「BNPの上昇」や「心臓由来の肺うっ血や全身うっ血の客観的な証拠」があるものとされた(図1)3)。
すなわち,労作時息切れ・むくみのような心不全の症状や身体的所見がないと,心不全(stage C)とは診断されない。BNPが上昇しているだけ,心エコーで左室の運動障害があるだけでは心不全と言えず,その状態は心不全前段階(stage B)と呼ばれる。また,左室の形態的・機能的異常はないが,将来心不全に移行する可能性の高い高血圧や糖尿病は,心不全のリスクが高い群(stage A)とされた。stage Bのような心不全になる可能性がある状態においては,心不全になることを想起しながら予防的治療を行うことが推奨され,stage Aにおいてもその予防を念頭に置きながら治療することが重要である。本稿では,心不全の定義に基づいたstage Cの治療について言及する。
さらに,心不全は左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)により,LVEF 40%未満の「LVEFが低下した心不全(heart failure with reduced EF:HFrEF)」,LVEF 40~49%の「LVEFが軽度低下した心不全(heart failure with mildly reduced EF:HFmrEF)」,LVEF 50%以上の「LVEFが保たれた心不全(heart failure with preserved EF:HFpEF)」の3つに分類される(図2)。
心拍数と心不全管理〜イバブラジンをどうパズルに組み込むか(猪又孝元先生)
SGLT2阻害薬を用いた新しい治療戦略─糖尿病×心不全×慢性腎臓病(岩﨑慶一朗先生・伊藤 浩先生)
YUMINO流 心不全の在宅管理 5つのポイント〜手術以外の入院ゼロをめざす(小出雅雄先生・弓野 大先生)