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角膜ヘルペス[私の治療]

No.5190 (2023年10月14日発行) P.45

福田昌彦 (近畿大学奈良病院眼科教授)

登録日: 2023-10-16

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  • 角膜ヘルペスとは,ヘルペスウイルスにより引き起こされる角膜炎のことである。ヘルペスウイルスが角膜に感染すると,特徴的な病変を呈し治療法も複雑で,難治の場合は角膜移植を必要とすることもある。角膜ヘルペスを引き起こすウイルスは,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)と水痘帯状ヘルペスウイルス(varicella-zoster virus)があり,それぞれ単純ヘルペス角膜炎,帯状ヘルペス角膜炎と呼ばれる。両ウイルスはともにヘルペスウイルス属に分類されるウイルスであるが,角膜炎に関しては臨床像が異なる。
    単純ヘルペスウイルスの初感染は,口内炎あるいは結膜炎であるが,約90%が不顕性感染とされている。水痘帯状ヘルペスウイルスの初感染は水痘である。どちらも初感染での角膜炎の発症は稀で,三叉神経第一枝に潜伏感染していたウイルスが再活性化することにより角膜炎が発症する。水痘帯状ヘルペスウイルスの再活性化は眼部帯状ヘルペスと呼ばれ,三叉神経第一枝領域の皮疹を起こすが,角膜炎の合併は稀である。角膜炎はウイルスが直接角膜上皮細胞を破壊,増殖する上皮型と,ウイルスあるいは免疫複合体が免疫反応を起こす実質型とに区別され,治療方針も大きく異なる。

    ▶診断のポイント

    診断は臨床所見とウイルス学的検査を組み合わせて行う。単純ヘルペス角膜炎の場合,角膜所見は上皮型,実質型,栄養障害性潰瘍,内皮炎等に分類される。上皮型角膜ヘルペスは,病変の大きさによって星状角膜炎,樹枝状角膜炎,地図状角膜炎と呼ばれる。樹枝状の名前のように病変部はつながって拡大する傾向がある。潰瘍部の実質には細胞浸潤もみられ,樹枝状の末端部は膨らんでいる(terminal bulb)。実質型角膜ヘルペスは,円形の浮腫を起こす円板状角膜炎と,再発を繰り返し実質の細胞浸潤が強くなった壊死性角膜炎とにわかれる。円板状角膜炎は,通常は上皮欠損を伴わず,局所的な強い角膜実質浮腫,混濁,炎症部に一致した角膜後面沈着物,前房内炎症も認めることが多い。壊死性角膜炎は,強い細胞浸潤を伴った角膜混濁,実質浮腫,角膜後面沈着物,前房内炎症に加え上皮欠損も伴う場合がある。また,上皮欠損が遷延化する栄養障害性潰瘍,内皮側の局所的あるいは全体的な強い炎症の出る内皮炎もある。

    帯状ヘルペス角膜炎も上皮型の樹枝状角膜炎を起こすが,terminal bulbは伴わず偽樹枝状角膜炎と呼ばれる。実質型角膜炎は稀で,強い虹彩炎を起こす場合が多い。

    単純ヘルペス角膜炎の上皮型は,特徴的な樹枝状角膜炎であれば診断に迷うことはないが,炎症の初期病変や非典型的な病変の場合は,蛍光抗体法,PCR法,real time PCR法でウイルスの確認が必要である。円板状角膜炎,壊死性角膜炎の場合は,細菌性角膜潰瘍,真菌性角膜炎,アカントアメーバ角膜炎などとの鑑別が必要である。帯状ヘルペス角膜炎では,三叉神経第一枝領域の皮疹が先行するため診断は容易であり,通常,ウイルス学的検査は行わない。

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