メタボリックシンドローム(MetS)などの代謝異常はアテローム動脈硬化性疾患のリスク因子としてよく知られているが、このような代謝異常を呈する例では心不全発症リスクも高いことが、わが国の大規模データ解析から明らかになった。
すなわち「MetS」「脂肪肝」を認める例ではいずれも、それらを認めない例に比べ心不全発症リスクが高く、両者を合併するとリスクはさらに高値となっていた。東京大学の大野龍征氏(BS)らが10月10日、JACC Asia誌で報告した。
今回解析対象となったのは日本在住で、心血管系疾患、肝疾患いずれの既往もない約328万名弱である。診療報酬データベースから抽出した。
年齢中央値は45歳、57.6%が男性だった。
代謝異常合併状況は、MetS/脂肪肝とも診断歴のない「正常」群が52%、ついでMetS・脂肪肝いずれも診断歴のある「MetS・脂肪肝合併」群が27%、「MetS(診断歴)のみ」群が18%、「脂肪肝(診断歴)のみ」群が3%となっていた。
これらを対象に「心不全発症率」ならびに「MetS/脂肪肝の有無と心不全発症の相関」を検討した。
平均1160日間に6万2746例(1.9%)が心不全と診断されていた。
MetS/脂肪肝と心不全発症率の関係を見ると、低いほうから順に「正常」群(10.2/1万人年)<「MetSのみ」群(14.7/1万人年)<「脂肪肝のみ」群(20.2/1万人年)<「MetS・脂肪肝合併」群(23.0/1万人年)という結果だった。
また4群の発生率曲線間には、観察期間を通じて乖離が広がっていた。
次にこれら代謝異常因子が心不全発症に及ぼすリスクを多変量解析(含・アルコール摂取)で求めると、「正常」群に比べたハザード比は「MetSのみ」群で1.20(95%信頼区間[CI]:1.18-1.23)、「脂肪肝のみ」群で1.24(95%CI:1.19-1.30)、「MetS・脂肪肝合併」群で1.73(95%CI:1.69-1.76)となっていた。
MetSと脂肪肝を合併するとそれぞれ単独よりも、リスクは有意に高かった。
これらの傾向は「アルコール摂取の有無」「収縮期血圧中央値の上下」「年齢50歳の上下」「男女」で分けて検討しても一貫していた。
なお本研究では、MetS/脂肪肝と心房細動間にも同様の関係を認めている。
大野氏らはこれらの結果のみではMetS/脂肪肝と心不全発症間の因果関係は実証できないと指摘し、MetS/脂肪肝への介入による心不全発症抑制作用の有無はあらためて検討する必要があると釘を刺している。
いずれにせよMetS/脂肪肝を認める例では、動脈硬化性疾患だけでなく心不全リスクにも目を配る必要はありそうだ。
本研究は厚生労働省、文部科学省から資金援助を受けた。