フェムテック、みなさまご存じでしょうか。「フェムテック」とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語で、 女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのことなのですが、日本では必ずしもテクノロジーを用いてないものも含めて、女性の健康に寄与するものすべてをフェムテックとしている風潮があります。まぁ言葉の定義は今回の主旨ではないので別の機会に。
実は2023年の「女性版骨太の方針」にも「フェムテックの利活用」が明記されています。政府が推すほど大事なものかというと、産婦人科医としては少々違和感があります。
女性特有の健康課題として、月経関連症状や更年期症状など多々ありますが、いずれも保険診療による適切な治療で症状は軽減されます。ところが、症状があっても受診せず、我慢して、パフォーマンスが下がり……という方が少なくありません。
症状の程度に個人差はあるものの、ある一定、医療が必要なことがあり、日本は医療へのアクセスがとてもよい、にもかかわらずそれが活用されていない状況で、必要な医療を差し置いてフェムテックの活用を勧めると、本来必要な医療から女性を遠ざけてしまうことになりかねません。
さらにフェムテックのプロダクト自体も玉石混交です。Femtech Tokyoというフェムテックの大規模な展示会で先日登壇した際に、展示場を視察してみると、エビデンスのない効用を謳った商品が散見されました。「子宮を温める」「子宮をもみほぐす」といった、医療者からすると??? なものが世の中には溢れています。しかも騙そうと思っているのではなく、恐らく本当に信じて勧めているようでした。たとえば、「体を温めることでリラックスできる」のはよいのですが、「不妊に効く」と謳うのは、本来必要な不妊治療から遠ざけてしまうことになります。リテラシーが低いと切り捨てるのではなく、我々医療従事者が、真摯に監修をしたり、地道に正確な情報を発信したりしていくことが大事と痛感しました。
日本のフェムテックのあり方には課題があるものの、女性の健康にここまで注目が集まっているのは史上初めてのことと思いますので、そこはポジティブにとらえ、医療とフェムテックのいいとこ取りで女性のQOLが向上していくことを期待します。
稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[フェムテック][エビデンス][製品の質][女性の健康]