ループス腎炎(lupus nephritis:LN)は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)患者の約半数に合併し,生命予後を左右する重篤な合併症のうちのひとつである。LNはISN/RPSの病理学的分類により6つの病型(classⅠ~Ⅵ)にわけられ,長い治療期間の中で,病型間での移行やいくつかの病型が共存したりする特徴を有している。それゆえ,常に腎組織所見を意識した診療を心がける必要がある。
SLEそのものの疾患活動性の変化や尿所見の変化をつぶさに観察し,著しい尿所見の変化を認めた場合は,積極的に腎生検を考慮していく。腎生検により正確な病理学的診断をつけ,その所見と個々の患者の背景に見合った治療法を選択していく。
LN治療の肝は,いわゆるLNに対する一般的な免疫学的治療と,LNも慢性腎臓病(CKD)の原疾患のひとつととらえた非免疫学的治療の2つの大きな治療観点から,患者個々に合ったオーダーメード治療とも言うべき治療を考案することにある。
class Ⅰ,Ⅱ:基本的に非免疫学的治療が主体であるが,蛋白尿が多い症例(1g/日)や糸球体血尿が多量で糸球体における炎症が強いと判断される症例では,低用量~中用量のステロイド治療を行うこともある。
class Ⅲ,Ⅳ:増殖性変化を伴うこのクラスの病型では,高用量ステロイド+免疫抑制薬併用療法が基本である。併用する免疫抑制薬としてはシクロホスファミドやミコフェノール酸モフェチル(MMF)を用いることが多いが,近年では好発年齢が若年女性であることも考慮し,MMFの使用頻度が増加傾向である。また,腎移植後の免疫抑制療法から知見を得たステロイド,MMFにタクロリムスを加えた3剤併用(multi-target療法)の有用性に関するエビデンスも蓄積されつつある。免疫学的作用の異なった薬剤を組み合わせることにより寛解導入率を上げるという点において,非常に理にかなった治療の選択肢であると言える。また,腎生検所見にて半月体を多数認め,急速進行性糸球体腎炎の臨床像を呈するような症例では,ステロイドパルス療法を考慮する。
class Ⅴ:膜性変化に富む組織所見のため,多量の蛋白尿を呈する症例が多い。しばしばSLEの血清学的マーカーと解離し,治療のメルクマールが蛋白尿のみとなることもある。そのため,ステロイドを中心にした免疫抑制療法が比較的長く行われているが,エビデンスレベルの高いレジメンがいまだに確立されていない。
寛解維持療法における免疫学的治療も基本的にはステロイド中心の治療ではあるが,その量や使用期間についてのエビデンスは乏しい。寛解導入療法の際と同じく,ステロイドの量と使用期間の短縮をねらいシクロホスファミドとMMFが併用されるが,シクロホスファミドの副作用を勘案し,MMFもしくはアザチオプリンが併用されることも多い。
ヒドロキシクロロキン:ヒドロキシクロロキンの免疫学的作用(免疫調整薬)については不明な点もある。しかし,LNを合併していないSLE症例ではfirst lineとして使用されており,LNの発症を抑制している可能性も示唆されていることから,LN合併例でも併用可能であるならば,寛解導入期,寛解維持期を問わず併用を考慮する。しかし,定期的な眼合併症チェックを行うことや,腎機能低下症例では使用に注意を要する。
生物学的製剤:シクロホスファミドは総投与量の増加により悪性腫瘍などの副作用を認め,MMFも腎機能低下症例などでは消化器症状をはじめとする副作用を認めやすくなる。このため,近年,ベリムマブやリツキシマブといった生物学的製剤の併用が注目されている。特にベリムマブが活動性の高いLN症例にも効果が期待できることが報告されており,ステロイドを早期に減量せざるをえない例や,シクロホスファミドやMMFを併用しにくい症例では使用を考慮する。
降圧薬:LNに使用する降圧薬としてはRAS阻害薬が中心となる。特に蛋白尿が0.5g/日以上の症例や収縮期血圧130mmHg以上の症例で,どの病理学的分類であっても,first lineとして免疫学的治療に先駆けて開始する。RAS阻害薬でも降圧不十分な症例では,N型カルシウムチャネルブロッカーを併用し,降圧および抗蛋白尿作用を期待する。
抗脂質異常症薬:ネフローゼ症候群合併例や,高用量ステロイド治療中などでは,脂質異常症を合併している症例が多い。LNというよりSLEそれ自体が動脈硬化促進因子となっていることから,LDL-C 100mg/dLを目標に脂質異常症の治療を行う。
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