推算糸球体濾過率(eGFR)が「30mL/分/1.73m2」を下回っていても、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は左室駆出率(EF)の低下した心不全(HFrEF)に有用である可能性が明らかになった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のFederica Guidetti氏らが大規模レジストリ解析の結果として10月5日、European Journal of Heart Failure誌で報告した。
MRAはHFrEF治療薬としてRALES、EMPHASIS-HFという確固たるエビデンスがあるものの、重度腎機能低下例は除外されていたため、これらに対する有用性は不明だった。そのため各国ガイドラインでも推奨内容に差があった(米国は非投与、欧州は減量が原則。わが国ガイドラインは慎重な使用を推奨)。
今回解析対象となったのはスウェーデン在住で「EF<40%」だったHFrEF患者3万3942例である。全国HFレジストリ(Swedish HF Registry)から抽出した。レジストリへの登録時期は、MRAがNYHA分類「Ⅱ-Ⅳ」度HFに推奨されるようになった2012年以降に限った。
年齢中央値は74歳、29%が女性だった。
これら3万3942例をeGFRの高低で4群に分け、MRA服用が「腎イベント」、ならびに「死亡」と「全入院」リスクに与える影響を、1年間のスパンで検討した。
4群の内訳は、
eGFR「≧60」mL/分/1.73m2群(62%)、「45-59」群(20%)、「30-44」群(13%)、「<30」群(5%)―だった。
・MRA服用状況
観察開始時のMRA服用率は、eGFRが低くなるほど減っていく傾向を認めた(54→32%)。
MRA中止率はeGFRの高低を問わず9~15%で一貫していたが、観察開始後MRA開始率はeGFRが高い群ほど増える傾向があった(5→13%)。
なおスウェーデンでは半量未満のMRAを服用するHFrEF患者は10%強しかいないため[Stolfo D, et al. 2022]、本研究ではMRA「減量の有無」を検討していない。
1年間の腎イベント(透析導入、腎死、腎不全入院、高K血症入院)発生率は、MRA「服用」群:14.6/1000人年、「非服用」群:17.5/1000人年だった。
「服用」群における未補正ハザード比(HR)は0.83(95%信頼区間:0.79-0.88)となり、この傾向はeGFRの高低を問わず一貫していた(交互作用P=0.40)。
ちなみにeGFR「<30」群に限っても「服用」群におけるHRは0.88(0.77-1.01)である。
・死亡/全入院
死亡、全入院も同様に、MRA「服用」群で有意なリスク低下を認め、この傾向もeGFRの高低に影響を受けていなかった。
なおeGFR「<30」例のMRA「服用」群における「死亡」HRは0.93(0.81-1.08)、「全入院」も0.96(0.85-1.08)である。
Guidetti氏らによる結論は「重度慢性腎臓病患者でもMRA中止は推奨されないのではないか」というものだ。ただし「臨床検査値をしっかり調べられるなら」としっかり付記されている。
本研究は、欧州連合による”Horizon Europe programme”と”Swedish Heart and Lung Foundation”から資金提供を受けた。