去る11月11日から3日間、米国フィラデルフィアで米国心臓協会(AHA)学術集会が開催された。今年は現地開催のみでウェブ配信はない。ただし12月に入りメディアにも一部録画が公開されたため、ここでは大規模ランダム化比較試験(RCT)"CRHCP"(China Rural Hypertension Control Project)を紹介したい。「降圧による認知症抑制作用」を1次評価項目として証明した初のRCTとなった。テュレーン大学(米国)のJiang He氏がLate-Breaking Scienceセッションで報告した。
CRHCP試験の対象は、中国在住で40歳以上の高血圧患者4万6740例である。326の農村から登録された。高血圧の定義は「未治療で≧140/90mmHg」、「降圧薬服用下/心腎疾患または糖尿病合併で≧130/80mmHg」とされた。平均年齢は63歳、女性が61%を占め、BMI平均値は26kg/m2だった。
これら4万6740例から1万2745例が血圧や辞退などの理由で除外され、残り3万3995例が「到達血圧<130/80mmHg」を目指す「積極降圧」群と、何ら介入のない「通常治療」群にランダム化され、4年間の「認知症発症」率が評価された。ランダム化は村単位で実施され(「積極降圧」群:163村、1万7407例。「通常治療」群:163村、1万6588例)、非盲検で4年間観察された。
「積極降圧」群では村に在住のドクターが、試験プロトコルに従い降圧薬治療を調整した。加えて生活指導・服薬指導、さらに家庭血圧測定も指導した。また試験で用いる降圧薬は安価、あるいは無料で患者に届けられた。「認知症発症」は試験終了時、神経学専門医が評価した。これらの医師には患者が割り付けられた治療群は知らされていない(PROBE法)。
・血圧
試験開始時およそ「155/87mmHg」だった血圧平均値は、「積極降圧」群で「128/73mmHg」まで低下した。一方「通常治療」群では「148/81mmHg」までしか下がっていなかった。また「積極降圧」群では「<130/80mmHg」達成率も有意に高かった(67.7% vs. 15.0%)。なお「積極降圧」群における「27/14mmHg」という降圧幅には、質疑応答で驚きの声が寄せられた。ちなみに同国で実施されたRCT“STEP”の「積極降圧」群でも、試験開始時146mmHgだった収縮期血圧は平均1.9剤の降圧薬で127mmHgまで低下している(PROBE法)。
・認知症
このような血圧低下に伴い「積極降圧」群では「通常治療」群に比べ、認知症発症リスクも有意に低下した。発生率は「1.12%/年 vs. 1.31%/年」、「積極降圧」群におけるハザード比(HR)は0.85(95%信頼区間[CI]:0.76-0.95)である。同様に「軽度認知機能低下」を来すリスクも「積極降圧」群で有意に低くなっていた(HR:0.84、95%CI:0.80-0.87)。
指定討論者のミシシッピ大学(米国)のDaniel W Jones氏はこの結果を「降圧による認知症リスク減少の決定的なエビデンス」になり得ると評価した。2002年に大規模RCT"Syst-Eur"が降圧治療による認知症抑制を報告してから20年余。本研究が査読を通り論文化されるのを待ちたい(指定討論者も同旨の発言)。
本試験は中国政府機関から資金提供を受けた。