心不全例が睡眠時無呼吸を合併すると左室駆出率(EF)の高低を問わず増悪リスクが上昇する可能性が、大規模ランダム化比較試験(RCT)"DAPA-HF"と”DELIVER”を併合した1万例超の解析から明らかになった。英国・グラスゴー大学のJawad H Butt氏らが12月14日、Journal of Cardiac Failure誌で報告した。
EFの低下した心不全(HFrEF)では睡眠時無呼吸合併に伴う死亡リスク上昇が報告されていたが[Wang H, et al. 2007]、心不全そのものへの影響は不明であり、またEFの維持された心不全(HFpEF)に対する睡眠時無呼吸の影響も不明だった。
今回解析対象となったのは、”DAPA-HF”(HFrEF対象)・”DELIVER”(HFmr/pEF対象)参加例中、睡眠時無呼吸既往の有無が明らかだった1万1005例である。全例、NT-proBNP上昇を伴う症候性心不全(pEFは左房拡大か左室肥大を伴う)で、2型糖尿病合併の有無は問わないが1型糖尿病は除外されている。
試験開始時に睡眠時無呼吸既往を認めたのはHFrEFの5.7%、pEFの7.8%。性別で見ると男性の7.8%、女性の5.1%だった。
これら1万1005例を睡眠時無呼吸「既往」の有無で分け、両試験共通の1次評価項目である「心血管系(CV)死亡・心不全増悪」リスクに及ぼす影響を比べた。「既往」の有無は担当医が評価した(別委員会による確認作業はなし)。
その結果、睡眠時無呼吸既往があると、EFの高低を問わず、心不全増悪リスクの有意上昇が認められた。すなわち、観察期間中央値1.5年(DAPA-HF)~2.3年(DELIVER)における「CV死亡・心不全増悪」ハザード比(HR)は、睡眠時無呼吸「既往」例で「非既往」例に比べ1.29の有意高値だった(95%CI:1.10-1.52)。EFやNT-proBNPなど心不全予後規定因子補正後の値である(以下同)。
「心不全増悪」のみで見ても同様だった(「既往」例におけるHRは1.44[95%CI:1.20-1.73])。この睡眠時無呼吸「既往」例における「心不全増悪」リスクの上昇は、EFの高低に影響を受けていなかった(交互作用P≧0.67)。一方「CV死亡」のみでは、睡眠時無呼吸「既往」に伴う有意なリスク増加は認めなかった(1.03、95%CI:0.80-1.32)。
なおSGLT2阻害薬群は、睡眠時無呼吸既往の有無を問わず、プラセボに比べ「CV死亡・心不全増悪」リスクを低下させていた(交互作用P≧0.93)。
Butt氏らは、心不全例における睡眠時無呼吸合併の本当の割合を本試験で認められた約6~8%よりも高値と考えている。心不全例に対する睡眠時無呼吸のスクリーニングは一般的ではないためである(陽性例見逃しの可能性)。
一方、睡眠時無呼吸が見つかったとしても介入が有用であるかは不明だと、同氏らは警鐘を鳴らしている。HFrEFの睡眠時無呼吸に対する介入はCV転帰を改善しないだけでなく、増悪の可能性もあり[Drager LF, et al. 2017]、またHFpEFではまだ検討されたことがない。睡眠時無呼吸と心不全増悪間の因果関係存否も含め、今後の研究が待たれる。
DAPA-HF、DELIVERの両試験はAstraZenecaから資金提供を受けた。