血糖降下治療下の2型糖尿病(DM)において、低血糖発現は必ずしもその後の心血管系(CV)イベントリスクを増加させない可能性が、大規模ランダム化比較試験(RCT)2報の後付解析から明らかになった。ドイツ・アーヘン工科大学のNikolaus Marx氏らが1月3日、JAMA Cardiology誌で報告した。
DM例における「低血糖発症」とその後の「CV転帰増悪」間の因果関係は、「存在するとのエビデンスなし」とするレビューがある一方[Desouza CV, et al. 2010]、「血糖降下薬によるCVイベント抑制作用は低血糖リスクの少ない薬剤のほうが大きい」とのメタ解析も報告されており[Huang CJ, et al. 2018]、見解は一致していない。
今回解析されたのは、大規模RCT"CARMELINA"と"CAROLINA"である。対象患者はCARMELINA試験が、心腎疾患(除・末期腎不全)をすでに合併した(進展)2型DM 6979例(平均65.9歳、2型DM罹患期間中央値:13.6年間)、CAROLINA試験が、CV高リスク(±CV疾患)の(比較的早期)2型DM 6033例(同64歳、6.3年間)だった。
上記2試験において、低血糖(定義事前設定)発現例の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中(3-point MACE)+心不全(HF)入院」リスクを非発現例と比較した。なお両試験とも1次評価項目は「3-point MACE」のみである。CARMELINA試験とCAROLINA試験はいずれも、CV高リスク2型DM例を対象とするが、対照群(プラセボ、実薬)や追跡期間の違いなどが大きいため、併合解析ではなく個別に解析した。
・CARMELINA試験(進展2型DM例対象)
低血糖発現率は16.7%だった。また低血糖発現後の「3-point MACE+HF入院」の補正ハザード比(HR)は、非発現例に比べ1.23(95%CI:1.04-1.46)の有意高値となっていた。3-point MACEのみで比較しても同様だった(1.32、1.10-1.59)。ただし低血糖発現後の「総死亡」リスク有意増加は認めなかった。
・CAROLINA試験(比較的早期2型DM対象)
低血糖発現率は10.7%だった。ただしCARMELINA試験とは異なり、低血糖発現後の「3-point MACE+HF入院」リスクは有意を認めなかった(補正HR:1.00、95%CI:0.76-1,32)。3-point MACEのみでも同様である。他方「総死亡」は、低血糖発現例でリスクが有意に増加していた(HR:1.49、95%CI:1.16-1.92)。
なお、いずれの試験においても、低血糖発現後60日以内の「3-point MACE+HF入院」発生率はきわめて低かった。
Marx氏らは「低血糖がその後のCVイベントリスクを増加させる」という仮説に懐疑的である。上記2試験で低血糖直後にCVイベントが増加しない、低血糖発現の少なかった薬剤でCVイベント減少が観察されていない(CAROLINA試験)などがその理由だという。そして単に高リスク例では低血糖・CVイベントが、因果関係なく前後して多発するだけだと考えているようだ。実例としてはRCT”EXSCEL”のサブ解析があるという。ただしいずれにせよ、QOL維持などの観点から、低血糖が避けるべき有害事象であるという点には変わりはないとのことだ。
本研究はBoehringer Ingelheim & Eli Lilly and Company Diabetes Allianceから資金提供を受けた。