脳梗塞例では血栓回収療法の適応があると考えられる場合、頭位「30度挙上」で治療を待つよりも「水平仰臥位」で待機したほうが急性期の神経症状増悪は著明に抑制されることが、ランダム化比較試験(RCT)”ZODIAC”により明らかになった。加えて遠隔期機能転帰が改善できる可能性も示された。1968年に「脳梗塞急性期の頭位挙上による血流減少を介した症状増悪」の可能性が指摘されてから[Toole JF. 1968]、初めて水平仰臥位の有用性が証明された形である。
2月7日より3日間、米国フェニックス(アリゾナ州)で開催された国際脳卒中学会(ISC)にて、米国・テネシー・ヘルス・サイエンス・センター大学のAnne Alexandrov氏が報告した。
ZODIAC試験の対象は臨床的に安定した、血栓回収療法予定の脳主幹動脈閉塞疑い92例である。「水平仰臥位」が危険と考えられる例は除外されている(要呼吸管理、心不全など)。米国12施設から登録された。当初は182例登録予定だったが、「水平仰臥位」群の優越性が明らかになったため、早期中止となった。平均年齢は65歳強、中大脳動脈梗塞がおよそ8割を占めた。ASPECTS中央値は「8」、観察開始時のNIHSS中央値は「10」、mRSは98%が「0-1」だった。
これら92例は画像診断で脳出血が除外された時点で即、頭位「30度挙上」群と「水平仰臥位」群にランダム化され治療開始を待った。頭位挙上角度の維持は、研究者が付き添い常時確保した。1次評価項目は血栓回収療法直前の「NIHSS」である。「2ポイント以上増悪の有無」が比較された。NIHSSの初回評価はランダム化完了時点で開始し、10分おきに再評価を繰り返した。ただしカテーテル台移動前の最終評価だけは、プロトコールを知らされていない(臨床試験だと知らない)専門看護師が実施した(PROBE法)。
・有効性
その結果、血栓回収療法直前における「2ポイント以上のNIHSS増悪」は、頭位「30度挙上」群の55.3%に対し「水平仰臥位」群では2.2%のみだった(P<0.001)。「4ポイント以上のNIHSS増悪」(2次評価項目)で比較しても同様で、頭位「30度挙上」群に対する「水平仰臥位」群における著減が確認された(42.6% vs. 2.2%、P≦0.001)。いずれも「30度挙上」群における増悪は、ランダム化10分後から始まっていた。
・安全性
血栓回収療法前の症候性頭蓋内出血は「水平仰臥位」群では皆無、「30度挙上」群で1例だった。また院内肺炎(2次評価項目)は両群とも皆無だった。一方90日間死亡率(2次評価項目)は、「30度挙上」群のほうが有意に高かった(21.7% vs. 4.4%、P =0.03)。
・探索的評価項目
「ランダム化7日後、または退院時にNIHSS改善」を観察した割合は「30度挙上」群に対して「水平仰臥位」群で有意に高かった(67.4% vs. 86.7%、P=0.008)。また90日後のmRSも「水平仰臥位」群で著明な改善傾向を認めた。有意差には至らなかったのは「検出力不足が原因だ」とAlexandrovは考えている。
本研究は米国国立看護研究所から資金提供を受けて実施された。