・ 社会情勢の変化に伴い,高齢者の定義を75歳以上に変更しようという流れがある。また,内視鏡診療を必要とする患者も高齢化が進んでいる。
・ 高齢者は非高齢者と比較して身体的,社会的に様々な問題を抱えており,個々の症例に合わせた診療を考える必要がある。
・ 内視鏡検査の前後で安全を確保する姿勢が大切である。内視鏡治療については,必要性と侵襲によるリスクに加え,患者の希望や術後のQOLも考慮し,総合的に判断する必要がある。
・ 全身状態,併存疾患,認知機能,抗血栓薬を中心とした内服薬の確認を行い,検査の適応を判断する。
・ 家族の協力やサポート状況の確認は重要である。
・ より侵襲の小さい方法がないか,その可能性を考える。
・ 下部内視鏡検査の場合は適切な前処置の選択を行う。
・ 安全性に配慮した鎮静薬や鎮痛薬の使用を心がける。
・ 検査中の偶発症を避けるための工夫と配慮を行う。
・ 検査終了後だけでなく,帰宅後にも配慮して家族のサポートを依頼しておく。
・ 消化管出血に対しては抗血栓薬の服用や併存疾患によるリスクを把握し,安全を確保する。
・ 早期癌の内視鏡治療については,患者因子と病変因子を評価し,総合的に判断する。
わが国では人口の高齢化が進み,臨床の現場に占める高齢者の割合は高い。世界保健機関(World Health Organization:WHO)の定義では,65~74歳が前期高齢者,75歳以上が後期高齢者と定められているが,近年における社会や医療水準の変化から65〜74歳でも健康を保ち仕事などの社会活動を継続している人は多く,65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっている。そのような背景の中,日本老年学会・日本老年医学会の「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」において,高齢者の新たな定義を75歳以上とすることが提案されている。
臨床の現場において75歳以上の患者はもとより,85歳を超える超高齢者に遭遇することは稀ではない。われわれ消化器内科の診療においても,内視鏡検査を必要とする高齢者は,今後も増加が予想される。一般的に高齢者は非高齢者と比較して,医療行為に伴う侵襲の影響が大きいとされる。身体機能の低下した高齢者では内視鏡検査や治療,また使用する薬剤によるリスクが問題となる場合があり,併存疾患や抗血栓薬などの服用が,治療適応や偶発症のリスク判断に影響を及ぼす。高度に認知機能が低下している場合は,家族と十分に相談する必要があり,さらには生活状況などの社会的な背景も考慮する必要がある。高齢者の診療においては,多くの要素を考える必要があるのだが,個人差が大きいため,一人ひとりに合わせたオーダーメード的な判断が要求される。
本稿では高齢者に対する内視鏡診療において,筆者が実際の臨床で注意している点を中心に解説する。高齢者としては75歳以上を想定しているが,それ以下であっても加齢に伴う身体機能や認知機能の低下,併存疾患などが治療方針に影響を及ぼす症例も,同様に考えている。前半では主に待機的に行う上部内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD)と下部内視鏡検査(colonoscopy:CS)について検査前から検査後の各タイミングで注意すべき点を,後半では内視鏡を用いた治療について高齢者で遭遇する頻度の高い消化管出血と早期癌に対する内視鏡切除に絞って解説する。
プレミアム会員向けコンテンツです(連載の第1~3回と最新回のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む
【編集部より】内視鏡診療,消化器内科診療については, こちらの記事も読まれています。
▶ 高齢者の上部消化管早期悪性腫瘍患者に対する内視鏡治療の現状について[プロからプロへ]
▶ 胃食道逆流症(GERD)に対する内視鏡治療の適応・治療法は?[プロからプロへ]
▶ フレームワークを活かした腹部POCUS─プライマリ・ケア診療に定着させる考え方[特集](上松東宏先生)
▶ 潰瘍性大腸炎 外来フォローのキモ[特集](加藤 順先生)