眼瞼内反症は,様々な要因によって瞼縁が眼球へと内方回旋し,睫毛が角膜に接触している状態である。後葉(瞼板)が完全に翻転することにより角結膜上皮障害や流涙,眼脂の増量,眼瞼炎などをきたし,60歳以上での有病率は2.1%と言われている1)。眼瞼内反症は高齢者の下眼瞼で好発し,退行性眼瞼内反症と瘢痕性眼瞼内反症に分類される。退行性眼瞼内反症は,加齢による眼瞼の垂直および水平方向の弛緩が主な原因となる。瘢痕性眼瞼内反症は,外傷や手術,炎症性疾患が原因となる。臨床的には,睫毛乱生症と眼瞼内反症の合併を認めることもしばしば経験する。
角膜や結膜に睫毛が持続的に接触することにより,球結膜の充血や流涙などを認め,点状表層角膜炎や角結膜上皮障害が引き起こされ,角膜潰瘍や眼球穿孔に至ることもある。一見正常に見えても強い瞬目を数回すると眼瞼内反症が明らかになることもある。
眼瞼内反症と診断するためには下記の方法がある。
pinchテスト:下眼瞼の皮膚を引っ張り上げ,下眼瞼縁が眼球表面からどれだけ離れるかを検査する。正常であれば5mm程度であるが,8mm以上離れるようであれば眼瞼内反症が疑われる。下眼瞼縁の離れる距離が長いほど,術後の再発リスクも高い。
snap backテスト:下眼瞼の皮膚を手前に引っぱって下眼瞼を眼球より離す。下眼瞼の皮膚が戻る速さを利用して水平方向の弛緩を判断する。正常であれば下眼瞼が元の位置に戻るが,眼瞼内反症が疑われる症例では,下眼瞼が戻るスピードが遅かったり,正しい位置に戻らなかったりする。
眼瞼内反症で絶対的な手術適応となるのは,睫毛が反復して持続的に角膜に接触することによって角膜に血管侵入が生じている症例,角膜混濁による視力低下をきたした症例である。流涙,羞明,異物感,眼脂の増量,眼瞼炎などの症状がある症例や,定期的な睫毛抜去を行い点眼薬・眼軟膏などの保存的治療を併用しても角結膜上皮障害が遷延する症例もよい手術適応である。
手術としては,lower eyelid retractors(LER)の垂直方向の弛緩を改善するJones変法(Kakizaki法)が第一選択となる。Jones変法ではLERの短縮を行うことで眼瞼内反症を改善するが,臨床では垂直方向のみならず水平方向の弛緩も強い症例が存在する。このような症例では,垂直方向の弛緩を改善するJones変法に加えて水平方向の弛緩を改善するlateral tarsal strip(LTS)を同時に施行するのが望ましい。LTSは1979年にAndersonらにより報告された方法2)で,睫毛下での切開と外眼角の皮膚切開を行い,下眼瞼の瞼板を露出させて眼窩外側縁の骨膜に再縫合する3)。これによりlateral canthal tendon(LCT)が修正され水平方向の引き締めが起こり,下眼瞼が眼球表面に密着する。眼瞼内反症手術にLTSを併用することで,再発率を低下させることが可能である。
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