「インスリン抵抗性を基礎とする肥満・糖代謝異常」を示す用語として「糖尿肥満」(Diabesity)が提唱されている[Michaelidou M, et al. 2023]。では肥満と糖尿病(DM)のいずれが、生存や心血管系(CV)増悪リスクとしてより大きいのだろうか―。参考となる観察研究が3月5日、Diabetes,Obesity and Metabolism誌に掲載された。筆頭著者はチリ・ディエゴ・ポルタレス大学のFanny Petermann-Rocha氏。生存に関しては「太っていないのにDM」、CV転帰については「肥満の程度を問わずDM」が増悪因子となっている可能性が示された。
今回解析対象となったのは、メキシコシティの35歳以上の住民15万4128名である。戸別訪問によるコホート参加に応じた16万名弱から、「低体重」者と必要データ欠損者を除外した。平均年齢は52.3歳、女性が67.2%を占めた。
これら15万4128名を6群に分け、「全死亡」と「CV死亡」リスクを比較した。6群の内訳は、体重別の3群①「体重正常」(BMI:18.5-<25kg/m2)、②「過体重」(25-<30kg/m2)、③「肥満」(≧30kg/m2)と、DM(2型DM診断歴ありと自己申告)「有無」の2群の掛け合わせである。死亡リスク比較にあたっては、「年齢」「性別」「婚姻状況」「職業」「教育レベル」を補正した。
・全体の転帰
18.3年間(中央値)の観察期間中、全体で17.6%が死亡した。うち28.5%はCV死亡だった(全体の5.0%)。
・糖尿肥満の有無と死亡リスク
「死亡」のリスクが「体重正常・非DM」群に比べ最も大きかったのは、太っていないのにDMを発症している「体重正常・DM」群だった(ハザード比:2.90、95%信頼区間[CI]:2.76-3.06)。この「体重正常・DM」群における死亡リスク上昇幅は、同じくDMを合併する「過体重・DM」「肥満・DM」両群と比べても有意に大きかった。なお非DM群間で比較すると、意外なことに「過体重・非DM」群のほうが「体重正常・非DM」群よりも死亡リスクは低くなっていた(HR:0.96、95%CI:0.92-0.99)。一方、「肥満・非DM」群は「体重正常・非DM」群に比べて1.19の有意高値だった。
・糖尿肥満の有無とCV死亡リスク
「CV死亡」リスクはDMの有無が大きなファクターとなっていた。すなわち「体重正常・非DM」群に比べ、「DM」群では肥満の有無・程度を問わず、有意なリスク増大を認めた(HR:2.41-2.90)。
対照的にDMを認めなければ、「過体重・非DM」群のCV死亡リスクは「体重正常・非DM」群と差はなかった(HR:0.99、95%CI:0.92-1.06)。また「肥満・非DM」群は「体重正常・非DM」群に対して1.30の有意高値だった。そしてこの「肥満・非DM」群におけるCV死亡HR(1.30)は、同じく肥満でありながらDMを認める「肥満・DM」群(2.50)に比べて有意に低いだけでなく、肥満度のより低い「過体重・DM」群(2.34)と比べても有意に低かった。
Petermann-Rocha氏らは、肥満よりもDMのほうが「死亡」「CV死亡」リスク因子としては大きいと考察している。
本研究はメキシコ保健省とメキシコ国家科学技術会議から資金提供を受けた。