麻疹の世界的な流行に伴い日本でもその感染報告が相次ぎ、各科には問合せが増えているのではと思います。麻疹の感染力の強さと脳炎や亜急性硬化性全脳炎(SSPE)など合併症の怖さはここでは言わずもがなですが、妊娠中に麻疹に感染すると重症化リスクが高く、流産・早産・死産のリスクも高まります。
麻疹ワクチンの接種歴は年代によって異なり、今の妊婦さんの多くは1回だけ定期接種だった世代(1978〜2005年度生まれ)ですので、抗体価が十分ではない可能性があります。2007年の麻疹の流行をきっかけに、1990〜99年度生まれの人には追加接種の機会が設けられたので、中には2回接種した方もいるかもしれません。
麻疹がこのたび話題になる前から、風疹は、妊娠中に感染すると胎児が「先天性風疹症候群」(難聴、心疾患、白内障など)になる可能性があるため、妊娠を考えている男女を対象に、風疹の抗体検査と、抗体価が低い場合は予防接種にも、助成を行っている自治体が多くあります。
抗体価が低い場合に、風しんワクチンか麻しん風しん混合(MR)ワクチンを選択することができるため、自己負担額に違いがある自治体もありますが、MRワクチンを接種しておくと安心です。
最近の麻疹の報道を見て心配になられた方のうち、妊活中もしくは妊活検討中の方には、自治体の助成制度の活用もご案内頂けましたら幸いです。なお、MRワクチンは生ワクチンのため妊娠中には接種できません。
妊娠前に予防接種でしっかり抗体をつけておくと、胎盤や母乳を介して赤ちゃんに抗体が移行します。2006年度生まれ以降の子たちは、MRワクチン2回接種が定期接種とされていて、生後12〜23カ月で1回目を接種します。つまり、赤ちゃん自身がMRワクチンを受けることができるのは生後12カ月以降なので、それまでの期間は母体からの抗体で守るしかありません。妊婦さん自身のためにも、赤ちゃんのためにも、妊娠前のワクチン接種で母児ともに守られてほしいと願います。
稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[麻疹][定期接種の回数]