わが国の「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023」では「糖尿病性腎臓病」、あるいは「蛋白尿を有する糖尿病非合併慢性腎臓病」に対しSGLT2阻害薬が推奨されている。しかし同薬の腎保護作用を証明したランダム化比較試験(RCT)はどれほど一般化が可能なデータだったのだろう。プライマリケア医レジストリに照らし合わせると、参加可能例は1割以下という数字が得られた。英国・オックスフォード大学のAnna K Forbes氏らが3月22日、Nephrology Dialysis Transplantation誌で報告した。
Forbes氏らが解析対象に選んだのは、英国プライマリケアで加療中の18歳以上慢性腎臓病(CKD)51万6491例である。イングランドとウェールズのプライマリ医レジストリ(Oxford-RCGP RSC)から抽出した。プライマリケア医受診例を選んだのは、実臨床を最もよく反映していると考えられたためだという。
これら51万6491例中、どれほどの割合がRCT "CREDENCE"と" DAPA-CKD"、”EMPA-KIDNEY”に参加可能であるか調べた。これらのRCTではいずれも、アルブミン尿陽性CKD(±2型糖尿病)に対するSGLT2阻害薬の腎保護作用が認められている。
・RCT参加可能率
試験導入基準に合致し、かつ除外基準にかからなかった患者の割は、"CREDENCE"なら0.9%、DAPA-CKDで2.2%、最も高かったEMPA-KIDNEYでさえ8.0%だった。
実臨床CKD例が満たしていなかったRCT参加条件として多かったのは、「レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)服用」(37.8~59.6%)と「一定以上のアルブミン尿」(RAS-i服用例中39.8~55.8%)の2つである。
一方、実臨床CKD例が引っかかった除外基準としては「肝硬変」(CREDENCE)、「1型DM」(DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)、「移植、透析」などが多かった。
・RCT参加CKDと実臨床CKD間の患者像の差
次にRCT参加が可能と考えられた実臨床CKD例と実際のRCT参加例を比べると、以下の違いが明らかになった。
すなわち、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY試験は2型DM合併の有無を問わず参加できたが、2型DM合併例の割合は実臨床(32.8%)に比べ高い傾向にあった(67.6%と44.5%)。また試験参加CKD例は実臨床CKD例に比べ9~14歳若年だったが、CKDはより進展していた。
他方、DAPA-CKDとEMPA-KIDNEY参加CKD例では、それら試験に参加可能と判断された実臨床CKD例に比べ、心血管系(CV)疾患と心不全(HF)の合併率が低かった。具体的にはCV疾患合併率はDAPA-CKDでは「37.8 vs. 54.7%」、EMPA-KIDNEYでも「26.1 vs. 48.0%」である。同様にHF合併率も「10.9 vs. 18.6%」と「9.8 vs. 23.7%」だった。
実臨床CKD例における同様のRCT参加可能率は、米国からの解析でも報告されている [Aggarwal R, et al. 2020] 。
Forbes氏らは今回解析で明らかになった、実臨床CKD例における「不十分なRAS-i処方」と「アルブミン尿導入基準不達」の背景には、尿中アルブミン評価非実施(アルブミン尿見逃し)が存在すると考えており(特に非2型DM例)、RAS-iやSGLT2阻害薬の腎保護作用を最大化するにはCKD例に対するアルブミン尿評価を徹底する必要があると述べている。
本研究は外部からの資金提供を一切受けていないとのことである。