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特集:小児医療従事者・学校医のための包括的性教育

No.5216 (2024年04月13日発行) P.18

重見大介 (株式会社Kids Public 産婦人科オンライン代表/日本医科大学非常勤講師)

登録日: 2024-04-12

最終更新日: 2024-04-10

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産婦人科専門医,公衆衛生学修士,医学博士。2010年日本医科大学卒業。「女性の健康×社会課題」へのアプローチを活動の軸として,オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組みづくりや啓発活動,臨床研究,性教育などに従事。また,SNSやYahoo! ニュース,ニュースレターを通じて積極的に医療情報の発信をしている。

1 包括的性教育とは

  • 日本にはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツに関わる課題が多く存在する。
  • こうした諸課題へのアプローチとして「包括的性教育」の浸透が重要である。
  • 包括的性教育の国際的指針として「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」がある。

2 包括的性教育の基本概念

  • 8つのキーコンセプトが存在する。
  • 4つの年齢区分が設けられている。

3 包括的性教育に必要な10の条件

  • 10の条件(前提理解)を把握することが重要である。

4 近年重要視されてきた新たなテーマ:ウェブ情報の影響

  • 性的行動に関わる情報とポルノ画像・動画について情報提供する。
  • ネットいじめについて情報提供する。
  • セクスティングについて情報提供する。

5 包括的性教育プログラムに関する先行研究やエビデンス

  • 包括的性教育は,性行為や危険な性的行動の発生率,さらには性感染症やヒト免疫不全ウイルスへの感染率を上昇させることはない。

6 包括的性教育プログラム実践:学校現場でのポイント

  • 学校のマネジメントチームは,包括的性教育をサポートし,実行するための適切な環境をつくる重要な役割を担っている。
  • 支持的かつ包括的なカリキュラムや方針の策定が重要となる。

7 包括的性教育プログラム実践:医療現場でのポイント

  • 小児医療従事者や学校医は,包括的性教育に含まれるトピックの多くについて,子ども自身と保護者に情報提供することが可能である。

8 オンライン医療相談から見る日本の性教育の現状

  • オンライン相談では,外来診療と異なり,身近な不安や悩みが相談されやすい傾向にある。

1 包括的性教育とは

日本にはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(sexual and reproductive health and rights:SRHR)に関わる問題点が複数存在する。

  • 確実性の高い避妊法である経口避妊薬や子宮内避妊具などが普及していない
  • 海外で承認・普及している避妊法が国内では入手できない
  • 多くの先進国で60%以上の接種率であるヒトパピローマウイルスワクチンの接種率が依然として低い
  • 人工妊娠中絶は年間12~13万件程度実施され,20歳未満だけでも1日約25件である
  • ジェンダー不平等に伴う社会的負担の偏り

これらは,子どもが成長・発達して社会に出ていく上で,とても大きな壁になることが少なくない。

SRHRは日本語で「性と生殖に関する健康と権利」などと訳される。国際連合における人権活動の中心となる機関である国連人権高等弁務官事務所(Office of the High Commissioner for Human Rights:OHCHR)の説明を参考にすれば,SRHRは「達成できうる最高水準の身体的および精神的な健康を享受する権利であり,すべての人に不可欠な要素」と言い換えることができる1)

4つの要素に分解すると,表1のようになるだろう。それぞれの要素は当然ながら,部分的に重なっている。

これらに共通する潜在的かつ非常に大きな課題として,「包括的性教育」が社会に浸透していないことが挙げられる。包括的性教育は,国際的に広く認知・推進されている「性に関する知識やスキルだけでなく,人権やジェンダー観,多様性,幸福を学ぶ」ための重要な概念,かつ手段と言える。国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization:UNESCO)が中心となって作成された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(International technical guidance on sexuality education)」2)が,国際的な標準指針として頻用されている(図1)。この指針を念頭に置き,包括的性教育を日本社会に浸透させていくことは,性別問わず子どもたちのSRHRを向上し,ひいてはこれからの日本の未来を明るいものにするために不可欠だと考えられる。

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