うつ病は,生涯有病率が6%(欧米では10%を超える国も多い)にも及ぶcommon diseaseである。男女比は約1:2で女性に多い。抑うつ気分をはじめとした精神症状のほかに,食欲不振,倦怠感,痛みなどの多彩な身体症状を認める疾患である。うつ病患者は,身体症状を主訴に,(精神科以外の)一般医療機関を受診することが多いとされるので,注意が必要である。自殺のリスクもまた,うつ病診療の際に常に頭の片隅に入れておく必要がある。
診断は,DSM-5-TRなどの操作的診断基準を用いることが多い。DSM-5-TRによれば,ほとんど1日中ほとんど毎日の抑うつ気分,興味または喜びの著しい減退(以上が主症状),食欲不振・体重減少(または過食・体重増加),不眠(または過眠),精神運動性の焦燥または制止,易疲労性または気力の減退,思考力や集中力の減退,無価値感や罪責感,死についての反復思考(希死念慮・自殺企図)の9つの症状のうち,1つ以上の主症状を含む5つ以上の症状が,2週間以上にわたって続き,これらの症状により,臨床的に著しい苦痛,社会的・職業的に機能の障害を引き起こしている場合に,抑うつエピソードと診断される(身体疾患や物質によるものは除外)。さらに,統合失調症圏内の疾患が除外診断され,躁病・軽躁病エピソードの既往が認められないことが確認されて初めて,うつ病と診断される。
軽症のうつ病に対しては,経過観察,問題解決技法,心理教育,認知行動療法,運動などの非薬物療法が優先されることもあるが,中等症以上のうつ病に対しては,抗うつ薬による治療が推奨される。また,軽症のうつ病であっても,過去に中等症以上の既往がある場合や,抑うつ症状が遷延している場合には,抗うつ薬による治療を考慮すべきである。
抗うつ薬を選択する際の決まりはないが,筆者は忍容性の高さ(副作用の少なさ)から,最近はボルチオキセチン(トリンテリックスⓇ)を第一選択薬とすることが多い。抗うつ薬の効果が出現するまでに2~4週間かかることが少なくないので,十分期間の経過観察を行う。効果不十分の場合は,十分用量まで増量する。抗不安薬や睡眠薬(ベンゾジアゼピン系,非ベンゾジアゼピン系)は依存のリスクがあるため,使用しないか,頓服での使用,または短期での使用にとどめる。
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