慢性心不全(HF)に対する標準薬となったSGLT2阻害薬だが、薬剤間で有用性に差はあるだろうか。ランダム化比較試験(RCT)データの比較では否定的だ。一方、実臨床データからは、エンパグリフロジンがダパグリフロジンよりも有用である可能性が示唆された。ボストン大学(米国)のKatherine L. Modzelewski氏らが5月2日、JAMA Network Open誌で報告した。
解析対象の母体は、SGLT2阻害薬服用歴がなく、エンパグリフロジンかダパグリフロジンを開始したHF患者2万8075例である。北米を中心とする民間診療情報データベースから抽出した。
両群の背景因子は、SGLT2阻害薬服薬開始前1年間の値を、傾向スコア最近傍マッチング(通常のマッチングよりも厳密ではない)で揃えた。その結果、エンパグリフロジン群4969例(31%)、ダパグリフロジン群1092例(9%)を除外した各群1万1007例ずつで、服用開始後1年間の「総死亡」と「全入院」のリスクが比較された。
・患者背景
平均年齢は65歳、36%が女性だった。HF治療薬は79%がβ遮断薬、87%がRA系阻害薬(含ARNi)を服用していた。心不全類型はおよそ35%がHFpEFだった。なお、エンパグリフロジン、ダパグリフロジンの平均用量は不明である。
・総死亡
服用開始後1年間の「総死亡」率は、群間で有意差を認めなかった。すなわち、エンパグリフロジン群で6.3%、ダパグリフロジン群は6.9%である(ハザード比 [HR]:0.91、95%信頼区間[CI]:0.82-1.00)。
・全入院
一方、服用開始後1年間の「全入院」リスクは、エンパグリフロジン群で有意に低かった。対ダパグリフロジン群HRは0.90(95%CI:0.86-0.94)、発生率は29.7%と32.1%である。
なおエンパグリフロジン群ではHFrEF、HFpEFを問わず、「総死亡・全入院」の有意減少が認められた(HRは順に0.92、0.91)。
・有害事象
有害事象発現率に群間差はなかった(エンパグリフロジン群:5.9%、ダパグリフロジン群:6.5%)。
本研究とは対照的に、エンパグリフロジン、あるいはダパグリフロジンを用いたRCTメタ解析では、少なくとも両剤の「心不全入院」抑制作用に差はなく、「総死亡」抑制作用はダパグリフロジンで大きい傾向があった [Vaduganathan M, et al. 2022] 。
この点につきModzelewski氏らは「実臨床における服薬アドヒアランスの差」、「併存症治療薬と各SGLT2阻害薬間の相乗作用の差」が、本研究には反映されている可能性などを指摘している。
本研究は米国先進トランスレーショナル研究センター(国立衛生研究所傘下)とボストン大学から資金提供を受けた。また筆頭著者のModzelewski氏、責任著者であるNicholas A. Bosch氏とも、SGLT2阻害薬関連会社からの経済的供与は受けていなかった(OpenPaymentData)。