株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

慢性リンパ性白血病[私の治療]

No.5223 (2024年06月01日発行) P.51

伊藤量基 (関西医科大学医学部内科学血液腫瘍内科教授)

登録日: 2024-05-31

最終更新日: 2024-05-28

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は,B細胞由来の白血病で,日本では稀であり,高齢者に多い。末梢血や骨髄への浸潤がない場合,小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma:SLL)と呼ぶ。慢性の緩徐な経過を示すが,根治は望めない。

    ▶診断のポイント

    血液検査にて成熟リンパ球増加(5000μL以上)が認められた場合に,末梢血ならびに骨髄検査にてリンパ球の増生と,表面形質の解析によって,CD19,CD20 lowの発現と,免疫グロブリンκ鎖/λ鎖クローナリティに加えて,CD5,CD23陽性によって診断可能である。また,予後不良因子として,少なくとも17p欠失(TP53変異)はFISH法にて測定しておくべきである。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基本的に,進行性あるいは活動性の病態を示さない場合は,経過観察である。治療適応となった場合,悪性リンパ腫の治療のような期間限定のFCR(フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ)療法やBR(ベンダムスチン+リツキシマブ)療法をはじめとした免疫化学療法が,従来は行われていたが,CLLは高齢者に多いために,強力な免疫化学療法の対象になりにくく,予後不良因子症例に有効性が低い。わが国では,初回治療として推奨できるのは,Bruton’s tyrosine kinase(BTK)阻害薬であるイブルチニブと,キナーゼ選択性がより高いアカラブルチニブである。免疫グロブリン重鎖可変領域(IgHV)遺伝子変異の有無による予後不良はovercomeできる。忍容性については,特に心房細動,高血圧,出血に関してアカラブルチニブのほうが少ない。

    アカラブルチニブ使用の場合は,オビヌツズマブを組み合わせることができ,微小残存病変(MRD)陰性達成率が8倍以上に増加し,無増悪生存期間(PFS)で単剤効果を上回る。しかしながら,オビヌツズマブの併用は好中球減少と感染リスクを上昇させるため,感染症に注意が必要である。感染リスクが考えられる患者の場合は,アカラブルチニブ単剤での使用が望ましい。一方,若年者,aggressive,bulky病変,ハイリスク因子のどれかがある場合は,オビヌツズマブを追加することを考慮する。

    BTK阻害薬は初回治療としてprogressive diseaseまで使用でき,非常に長いPFSを供与できる薬剤である。しかし,裏を返せば,人生90年時代を前提にすると,BTK阻害薬が有効であった場合,仮に70歳の患者でもその後,長期にわたり投薬をし続ける必要があるということになる。この問題を解決する糸口が1つある。それが,期間限定治療で有効性が得られているB-cell lymphoma(BCL)-2阻害薬ベネトクラクスである。すなわち,BTK阻害薬で導入し,奏効した腫瘍量減少後に,ベネトクラクスにて期間限定の治療に切り替えることによって,treatment-freeをつくりながらも,長期PFSを供与できる治療法になりうる。

    このsequential therapyの利点は,BTK阻害薬でdebulkingしているため,ベネトクラクスによる導入初期の腫瘍崩壊症候群(TLS)リスクが低くなるということである。作用機序の異なるこの2つの薬剤をsequentialに使用する方法が,実臨床的にCLLの「私の治療」であり,期間限定治療を患者に供与できる有用な治療戦略と考える。

    残り1,034文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top