株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

特集:皆さんの身体活動・筋力トレーニングは足りている!?

No.5225 (2024年06月15日発行) P.18

中村雅俊 (西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科准教授 )

登録日: 2024-06-14

最終更新日: 2024-06-12

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


2009年長崎大学医学部卒業,2014年京都大学大学院医学研究科修了。同志社大学スポーツ健康科学部助教,新潟医療福祉大学リハビリテーション学部講師を経て,2023年より現職。

1 世界保健機関(WHO)が推奨している身体活動・筋力トレーニング

  • 1週間で150~300分の中強度の有酸素性の運動,もしくは75~150分の高強度の有酸素性の運動が推奨されている。
  • 少なくとも週2日はすべての主要筋肉群を使って中程度以上の強度での筋力トレーニングが推奨されている。

2 筋力トレーニングに関する基礎的な知識

  • 最大筋力の70~85%の負荷量で週2~3回以上のトレーニングが推奨されている。
  • 筋力トレーニングが継続できている人は,現在,非常に少ない可能性がある。

3 短時間筋力トレーニング─3秒筋トレの有効性と可能性について

  • 全力か全力近くの等尺性収縮を用いれば筋力が増加する可能性がある。
  • 伸張性収縮(筋肉が伸びながら収縮すること)を用いることで,1日3秒でも筋力増加効果が期待できる。
  • 筋力増加効果が期待できるのは週3日以上である。
  • 週に行う頻度を高めれば高めるほど,トレーニング効果は大きくなるので高頻度での実施が推奨されている。

4 特別な器機を使わなくても有効な伸張性収縮を用いた筋力トレーニングの紹介

  • 階段は上りより「下り」を意識することが効果的である。
  • クリニックでも指導が可能なトレーニング6種類を紹介する。
  • 筋力トレーニングとしてだけではなく日常生活でちょっと意識をするだけでトレーニングの代わりになる。

1 はじめに

加齢とともに筋力が低下することは,医療の現場のみならず世間一般的にもよく知られている事実であり,「日々の有酸素運動や筋力トレーニングは重要だ」と思っている人は多いと思う。また実際に,病院を受診する人の多くは,病気の影響で日々の活動レベルが下がっており,同年代の人に比べて筋力が低下している可能性が十分に考えられる。

「WHO 身体活動および座位行動に関するガイドライン1)」では,一般成人(18~64歳)においては,健康効果を得るためには1週間で150~300分の中強度の有酸素性の運動,もしくは75~150分の高強度の有酸素性の運動,または中強度と高強度の身体活動を組み合わせることが推奨されている。また,筋力増加効果に目を向けると,少なくとも週2日はすべての主要筋肉群を使って中程度以上の強度で筋力トレーニングをすることが推奨されている。さらに,65歳以上の高齢者の場合も同様に,筋力トレーニングは週2日以上が推奨されている。それに加えて,週3日以上の機能的なバランス運動と筋力トレーニングを重視した多様な要素を含む運動(マルチコンポーネント身体活動)が推奨されている。すなわち,健康な生活を送る上で,一般成人および高齢者は,週2日以上の有酸素性の運動や筋力トレーニングを行う必要がある。

しかし,実際にこの基準を満たしている人はどれくらいいるのだろうか。実際に来院する人(患者だけでなくスタッフも該当するかもしれない)をみてみると,これらの身体活動および筋力トレーニングができているとは想像しにくい。我々が適切な身体活動および筋力トレーニングを処方することで,実践してもらうきっかけになれば幸いである。

2 筋力トレーニングに関する基礎的な知識

筋力トレーニングを行う上で重要な要素として,過負荷(オーバーロード)の原則がある。これは,「筋力トレーニングを実施する際に使用する負荷量は,通常の生活やこれまでと同じトレーニング強度以上の負荷を用いなければ筋力増加の効果は期待できない」という原則である。つまり,筋力を鍛えたければ,通常の生活以上の負荷をかけて行わなくてはならないという原則である。多くの成書では,最大筋力の70~80%の負荷量を用いて,その重量を10回×3セット,週2~3回実施することが勧められている。たとえば,スクワット動作において50kgのバーベルを持ち上げることができる人の場合,35~40kgのバーベルで,10回×3セット行う程度が推奨される強度である。高齢者には負荷量が大きすぎるという指摘もあるが,National Strength and Conditioning Association(NSCA)のposition statementは,高齢者を対象とした場合でも,最大筋力の70~85%の負荷量を用いたトレーニングを推奨している。年齢にかかわらず,ある程度の負荷をかけて,週に2日以上の筋力トレーニングを実施する必要がある(表12)


しかし,前述の通り,週2回以上の筋力トレーニングを,どれほどの人が継続できているだろうか。フィットネスクラブでの継続率に関する報告では,新規会員の63%が3カ月後まで活動を継続することが難しく,1年間継続できた会員はわずか4%未満であることが報告されている3)。これらの報告は,身体活動や筋力トレーニングを継続して行うことは非常に困難であることを示している。病院を受診する人に対しても身体活動と筋力トレーニングが推奨されているものの,現実的には実施されていないことが容易に想像できる。「運動をするための時間がない」「具体的な運動・トレーニング方法がわからない」という背景もあるだろう。そこで,我々はこの筋力トレーニングのハードルを下げるべく研究を進めている。

この記事はWebコンテンツとして単独でも販売しています

プレミアム会員向けコンテンツです(連載の第1~3回と最新回のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top