腎臓病は1990年代までは保存期,透析期いずれにおいても,安静にすることが治療の第一手段であったが,腎疾患モデル動物を対象とした基礎研究や,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者を対象とした介入研究などを通じて,適度な運動は腎機能低下を進行させずむしろ腎保護的に作用することが明らかになっている1)。また,運動をしない透析患者では生命予後が悪いこと,適度な運動を行うことが透析患者の運動耐容能の改善や,日常生活動作(activities of daily living:ADL),生命予後の向上に役立つことなどが示されてきた(表1)1)。2016年には糖尿病性腎症の患者に対して,透析導入遅延を目的に質の高い運動指導を行った際に算定できる「腎不全期患者指導加算」が,2018年にはeGFR 45mL/分/1.73m2未満の糖尿病性腎症の患者に適切な運動指導を行った際に算定できる「高度腎機能障害患者指導加算」が収載された。さらに2022年4月から初めて透析患者に対して,透析中の運動療法を行った際に算定できる「透析時運動指導等加算」が保険収載されている。
運動することが腎臓病患者の予後に好影響を及ぼすことが明らかとなり,脳卒中や心臓病,呼吸器疾患などでは確立されているリハビリテーションを腎臓病領域にも適用して普及させようと,腎臓リハビリテーションという概念が生まれ,2011年には日本腎臓リハビリテーション学会が設立された。会員数は2011年の開設時には125名であったが,2017年722名,2020年1620名,2023年3009名と増加している。
腎臓リハビリテーションは,CKDによる身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法,薬物療法,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムである2)。腎臓リハビリテーションの中核である運動療法は,透析患者に対して運動耐容能改善,蛋白質異化抑制,QOL改善などをもたらすことが明らかにされており,治療のゴールはサルコペニア・フレイルの予防,骨格筋量,筋肉の機能維持である。
腎臓リハビリテーションの成果ならびに具体的な実践方法が医療専門職の間で共有されることを目的として『腎臓リハビリテーションガイドライン』が発行されている(図1)2)。『腎臓リハビリテーションガイドライン』は『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』に則り,6項目の臨床上の問題点(clinical question:CQ)を策定し,システマティックレビューに基づいた,最終的な推奨が提示されている。腎臓リハビリテーションの概念,評価法,具体的な実践方法など総論的な解説も含まれている2)。
「運動療法は透析患者において有用か?」のCQに対しては,中等度のエビデンスの強さであるB評価で「透析患者における運動療法は,運動耐容能,歩行機能,身体的QOLの改善効果が示唆されるために,行うことを推奨する」とされている。6項目のCQの中では最も高評価である2)。