【生物時計は日勤時に合わせ,夜勤時の眠気に対しては仮眠とカフェインで対処する】
交替勤務者は,全労働者の30%弱を占めています。交替勤務は,短期的には睡眠障害,倦怠,消化器症状,腰痛や肩こり,月経不順などを引き起こし,中長期的には高血圧,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病,発がん,死亡リスクを高めることが明らかになっています。中長期的な悪影響を低減する効果的な夜勤法は見出されていませんが,仮眠やカフェインなどをうまく活用することで,眠気やヒューマンエラーを一定程度,軽減することができます1)2)。週に1〜2回程度の交替勤務対策としては,以下のようなポイントが挙げられます。
①勤務間インターバルをできるだけ長くする(睡眠時間を確保する)。
②夜勤時の眠気には仮眠やカフェインで対処する(過剰摂取に留意)。
③夜勤明けの睡眠時間を適切に設定する(夜間睡眠が基本。仮眠は短めに)。
④生物時計は日勤に合わせて固定する(夜勤に合わせた急速な位相調整はできない)。
(1)仮眠をとる:深夜帯の30分程度の仮眠によって眠気や能率が改善し,ミスを減らすことができます。ただし60分以上の長い仮眠は覚醒後のぼんやり感(睡眠慣性)が生じやすいため,避けたほうがよいとされています。夜勤前(夕方)の仮眠は夜勤中の眠気を軽減しますが,夜型傾向が強い人は眠れないこともしばしばあります。
(2)カフェイン摂取:眠気や疲労を軽減させる効果がありますが,過剰摂取にならないように注意が必要です。カフェインの作用発現には20分程度かかるため,仮眠前に摂取することで睡眠を邪魔せずに覚醒後の睡眠慣性を防ぐことができます。
(3)光を浴びる:高照度光には即時的な覚醒効果とともに,朝に光を浴びると翌日の概日リズム位相が前進し,夕方以降に光を浴びると後退する作用があります。ただし,高照度光を効果的に活用しても1日当たりのリズム位相の変位幅はせいぜい数時間以下であるため,翌日の夜勤に合わせて夕方に光を浴びて位相後退を試みることは現実的ではありません。むしろ,夜勤明けの睡眠リズムに悪影響が生じかねません。夜勤中に強い照明を浴びるとリズム位相は後退しますが,帰宅時に日光を浴びることである程度解消されます。
(4)生活指導:週に1~2回程度の夜勤シフトが入る交替制勤務の場合,生物時計は日勤に合わせて固定して,夜勤時の眠気に対しては上記の対症療法を行うようにしましょう。夜勤明けの自宅での仮眠は強い眠気や倦怠が取れる程度に抑え,夜に普段より早目に就床して長めの睡眠時間を確保し,翌朝は日勤時と同じ時刻に起床するとよいでしょう。
【文献】
1)Gurubhagavatula I, et al:Clin Sleep Med. 2021;17(11):2283-306.
2)厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会:健康づくりのための睡眠ガイド2023.
https://www.mhlw.go.jp/content/001254003.pdf
【回答者】
三島和夫 秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授