左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)に対し、SGLT2阻害薬では心不全入院こそ抑制するものの、心血管系(CV)死亡や総死亡は減少させない [Wang Y, et al. 2022]。その「総死亡」を、スピロノラクトンで抑制できる可能性が観察研究ながら示された。Katherine E. Kurgansky氏らが7月9日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
今回解析対象となったのは、米国退役軍人データベースから抽出された「EF≧50%」のHF例で、「診断から1年以上生存」かつ「診断前スピロノラクトン服用歴のない」5万7114例である。9388例がHFpEF診断時にスピロノラクトンを服用、または診断後1年以内に同剤を開始していた。なおスピロノラクトン配合剤が処方されていた例は除外されている。
これら5万7114例からスピロノラクトン「服用」群と「非服用」群を選り出し、HFpEF診断から1年後以降の生存を比較した。「服用」群に組み入れられたのは服薬アドヒアランス「80%以上」と評価された3690例のみである(HFpEF診断から1年経過後に開始した1245例を含む)。アドヒアランス評価中に死亡などで観察中止となった例、あるいは肝疾患を発症した例は除外されている(255例)。
「非服用」群とされたのは、HFpEF診断から1年の間にスピロノラクトンを開始しなかった4万7726例と、1年経過後に開始したもののアドヒアランスが不良だった1465例である(計4万9191例)。
平均年齢は73.4歳、97.1%が男性だった。レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用率は70%(73%はACE阻害薬)、β遮断薬が32.4%、利尿薬は88.4%だった。
・総死亡
観察期間中の死亡率はスピロノラクトン「服用」群:10.3/1000人年、「非服用」群:13.5/1000人年だった(観察期間中央値は「服用」群が2.9年間、「非服用」群は3.3年間)。
「総死亡」発生率比は、スピロノラクトン「服用」群で有意に低くなっていた(未補正=0.76 、95%信頼区間[CI]:0.71-0.81、諸因子補正後=0.77、95%CI:0.72-0.82)。
ランダム化比較試験(RCT)メタ解析は、スピロノラクトンによるHFpEF例の生存改善を否定している [Li S, et al. 2018] 。本研究がこのメタ解析と異なる結果になった理由としてKurgansky氏らは「導入・除外基準」や「HFpEF定義の違い」「観察期間の差」を挙げる。本研究でRCTに比べ除外基準が少なかったため対象はそれらRCTよりもより重篤で、かつ観察期間はより長いという。
なおスピロノラクトンはRCT "TOPCAT" において、1次評価項目である「CV死亡・蘇生可能心停止・HF入院」リスクをプラセボに比べ減少させなかった(HR:0.89、95%CI:0.77-1.04)[Pitt B, et al. 2014]。しかしその後、米国で登録された患者だけで解析すると、これら1次評価項目の有意なリスク減少が認められた(同:0.82、0.69-0.98)[Pfeffer MA, et al. 2015] 。一方、有意差とならなかったロシアとジョージアではそのような差はなく、加えて臨床試験の体を成していなかったことが示唆されるに至った [de Denus S, et al. 2017] 。
スピロノラクトンのHFpEFに対する有用性は現在、RCT "SPIRRIT" と "SPIRIT-HF" であらためて検討中である。
本研究の解析対象となったコホート運営にはOtsuka Pharmaceuticalsからの研究費が充てられた。