夜間血圧低下を目的とした降圧薬就寝前服用は、起床後服用に比べ、初期の無作為化比較試験(RCT)[MAPEC、Hygia]では著明な心血管系(CV)イベントリスク抑制が報告された。その後、より厳格に実施されたRCT"TIME"ではその優越性は否定され[2022年ESC]、有用性をめぐる議論が続いていた。しかし降圧薬就寝前服用と起床後服用を比較した最後の大規模RCTであるBedMed試験が報告され、降圧薬就寝前服用は起床後服用に比べ、有用性の点でなんら優れないことが確認された。8月30日からロンドン(英国)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、Scott Garrison氏(アルバータ大学、カナダ)が報告した。
併せて報告されたRCTメタ解析の結果もご紹介したい。
BedMed試験の対象は、高血圧と診断されプライマリケア受診中の、1日1回型降圧薬を服用していたカナダ在住の3357例である(1日複数回薬の併用可)。主な除外基準は、緑内障合併例とシフト勤務者、また施設居住者である。平均年齢は67歳、女性が56%を占めた。また95%近くが白人だった。合併症/既往症は「睡眠時無呼吸」が最多で21.4%、次いで「糖尿病」の17.9%、「冠動脈疾患」の10.7%などが続いた。服用降圧薬数は単剤(含配合剤)が53.7%。2剤が34.7%だった。
これら3357例は1日1回型降圧薬を「就寝前」服用(夕食時も可)群(1677例)と「起床後」服用群(1680例)にランダム化され、盲検されることなく観察された。1次評価項目は「死亡、または脳卒中・急性冠症候群・心不全による入院・救急受診」(MACE)である。これらイベントの有無は、電話・メールで照会した患者からの回答、ならびに公的医療記録で判定した。両者が食い違う場合は主治医に問い合わせた。イベント判定者は割り付け群を知らされていない(PROBE法)。
・MACE
中央値4.6年間の観察期間後、1次評価項目であるMACEのリスクは、1日1回型降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に有意差を認めなかった(「就寝前」服用群ハザード比[HR]:0.96、95%CI:0.77-1.19)。発生率は「就寝前」服用群:2.30/100人年、「起床後」服用群:2.44/100人年である。
この結果は亜集団解析でも同様だった。年齢の高低や合併症/既往症の有無、使用降圧薬などで分けたいかなる集団においても、「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に有意差はなかった。
・安全性
2次評価項目として評価された「骨折」や「転倒」「失神」のリスクも両群間に差はなかった。「緑内障新規発症」と「視力増悪」、「認知機能」にも群間差は認められなかった。
Garrison氏は、医療・介護施設居住の高血圧例を対象に同様の検討を実施したBedMed-Frail試験の結果も報告した。829例(86%に認知症)が1日1回型降圧薬「就寝前」服用群(424例)と「現状維持」(ほとんどが起床後服用)群(405例)にランダム化され、1.1年間(中央値)観察された(解析対象は776例)。
その結果、やはりMACEリスクは「就寝前」服用群と「現状維持」群間で差はなかった(「就寝前」服用群HR:0.88、95%CI:0.71-1.11)。同様に、「骨折」「転倒」「認知機能」「抑うつ」などへの影響にも、両群間に差はなかった。
なおBedMed、BedMed-Frail試験とも、降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群の血圧を比較できる適切なデータはないとのことである。早期の論文化が待たれる。
Ricky Turgeon氏(セントポールズ病院、カナダ)は、上記BedMed、BedMed-Frailを含む、降圧薬「就寝前」服用と「起床後」服用を比較したRCT 5報のメタ解析を報告した。対象RCTは「就寝前」服用の有用性を報告した「MAPEC」(2201例)と「Hygia」(1万9168例)、そのような有用性を認めなかった「TIME」(2万1104例)と今回の「BedMed」(3357例)、「BedMed-Frail」(776例)である。
その結果、「死亡・心筋梗塞・脳卒中・心不全増悪」発生リスクはやはり、降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に差はなかった(「就寝前」服用群HR:0.71、95%CI:0.43-1.16)。
Garrison氏は「降圧薬はもっとも飲み忘れの少ない時間に服用すべきだ」と結論した。指定討論者のIsla S Mackenzie氏(ダンディー大学、英国)の結論も同旨である。メタ解析を報告したTurgeon氏に至っては「高血圧管理におけるクロノセラピーというコンセプト」そのものが(もはや)支持されないと述べた。
BedMed、BedMed-Frail試験に対する外部資金提供の有無は開示されなかった。ClinicalTrials.govによれば同試験のスポンサーはアルバータ大学のみである。