欧州心臓病学会(ESC)は、欧州高血圧学会と袂を分かってから[本誌既報]初の高血圧ガイドラインを、8月30日からロンドン(英国)で開催された学術集会にて公表した。最大の目玉は、一般的な降圧目標を「120-129/70-79mmHg」に引き下げた点である。この変更の根拠となったランダム化比較試験(RCT)の1つが、中国から報告されたSTEPである[2021年ESC報告レポート]。
今回の学術集会ではそのSTEP試験を6年間延長したデータが、Qirui Song氏(北京協和医学院、中国)により報告された。60歳以上に対する「収縮期血圧(SBP)<130mmHg」を目指した厳格降圧を早期から開始する有用性は、あまり大きくないようだ。
オリジナルのSTEP試験参加者は、中国在住で60~80歳の、脳卒中既往を認めない高血圧(スクリーニング時SBP:140~190mmHg、または降圧薬服用)8511例だった。これらは診察室測定SBP目標値別に「130mmHg未満(110mmHg以上)」(厳格降圧)群と「150mmHg未満(130mmHg以上)」(通常降圧)群にランダム化され、盲検化されず3.34年観察された。その結果、1次評価項目の「複合心血管系(CV)イベント」(脳卒中・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・冠動脈血行再建術・急性非代償性心不全・心房細動・CV死亡)発生リスクは、「厳格降圧」群で相対的に26%、有意に低下していた(Number Needed to Treat[NNT]:91)。一方、「死亡」リスクの群間差は有意とならなかった。
また「低血圧」は「厳格降圧」群で有意に多く、Number Needed to Harmは「125」だった。
今回解析対象となったのは、上記試験終了後の延長介入に同意した「厳格降圧」群3600例(84.8%)と、「通常降圧」群3521例(82.5%)である。上記試験期間にCVイベントをきたした例は除外されている。背景因子の提示はなかった。
これら7121例は全例、SBP「130mmHg未満(110mmHg以上)」を目標とした厳格降圧を受け、平均33カ月間追加観察された。評価項目はオリジナルのSTEPと同じ「複合CVイベント」である。
・血圧
追加観察期間中のSBP平均値は、元「厳格降圧」群128.7mmHg、元「通常降圧」群130.9mmHgで有意差はなかった。
・複合CVイベント
追加観察期間中(延長後の3年間)の複合CVイベント発生率は、両群間に有意差を認めなかった(元「厳格降圧」群:1.56%/年、元「通常降圧」群:1.43%/年)。複合CVイベントを構成する個々のイベントを比較しても同様で、有意差はなかった。「総死亡」も同様だった。
一方、試験開始から追加観察期間終了までの最長6年間で比較すると、元「厳格降圧」群の複合CVイベントリスクは、元「通常降圧」群に比べ有意に低くなっていた(ハザード比[HR]:0.82、95%CI:0.71-0.96)。発生率は元「厳格降圧」群:1.12%/年、元「通常降圧」群:1.33%/年である。つまり、早期からの厳格降圧開始によるNNTは476/年となる。「厳格降圧」群における、試験開始から追加観察期間終了までの「総死亡」HRは、1.06(95%CI:0.83-1.35)だった。
・安全性
試験開始から追加観察期間終了までの有害事象を比較すると「低血圧」は元「厳格降圧」群で有意に多かった(期間を通したNumber Needed to Harm:100)。一方、「骨折」リスクは逆に元「厳格降圧」群で低い傾向が見られた(HR:0.80、95%CI:0.44-1.45)。報告後の質疑応答ではこの点を高く評価する声が聞かれた。また腎イベントも両群間に有意差はなかった。
本報告に開示すべき利益相反はないとのことである。