左室機能の保たれた(EF≧50%)心不全(HFpEF)では、4〜6割が心房細動(AF)を合併するという[Fauchier L, et al. 2023]。このようなAF合併HFpEF例の心血管系(CV)転帰には、貧血などの非CV合併症による影響のほうがCV合併症よりも大きい可能性がある。わが国における観察研究の結果として、京都医療センターの濱谷康弘氏らが9月21日、ESC Heart Failure誌で報告した。
今回の解析対象は、AFを合併するHFpEF(EF≧50%)例である。主解析では、地域悉皆登録研究であるFushimi AFレジストリのAF 4496例中、HFpEFを認めた755例(平均年齢77.5歳)が解析対象となった。加えて探索的検索として、心不全(HF)入院例を全登録したKyoto Congestive Heart Failure(KCHF)レジストリから、AF診断歴のあるHFpEF 878例(平均年齢82.0歳)が解析された。
Fushimi AFレジストリ/KCHFレジストリ別々に、「心臓死・HF入院」のリスク因子を探った。
(1)Fushimi AFレジストリ
・転帰
中央値4.4年間の観察期間中、33%が「心臓死・HF入院」を来した(8.2%/年)。
・予知因子
多変量Cox回帰解析で「心臓死・HF入院」の有意な予知因子として残ったのは以下の5項目だった。すなわち、「COPD」(ハザード比:1.87、95%CI:1.08-3.22)、「貧血」(同:1.83、1.37-2.46)、「75歳以上」(1.72、1.26-2.36)、「CKD」(1.69、1.27-2.26)、「糖尿病」(1.55、1.15-2.09)―である。
一方、CV合併症である「冠動脈疾患」や「弁膜症」「高血圧」「持続性AF」などは有意な因子とならなかった。
(2)KCHFレジストリ
・転帰
中央値1.3年間で37%に「心臓死・HF入院」を認めた(34.7%/年)。
・予知因子
こちらのレジストリでも「心臓死・HF入院」の有意な予知因子となっていたのは「貧血」(同:1.52、1.10-2.08)、「75歳以上」(1.46、1.03-2.08)、「CKD」(1.44、1.13-1.85)、「糖尿病」(1.37、1.05-1.78)―の非CV疾患/因子だった(COPDは有意な因子とならず)。またFushimi AFレジストリと同様、CV疾患は有意な予知因子とはならなかった。
濱谷氏らは、これらの結果がAF合併HFpEF例に対するCV合併症治療の必要性を否定するものではないが、それに加えて非CV合併症への留意も必要であり、そうすると患者ごとに異なった包括的アプローチが必要になるだろうと考察している。
本研究は研究資金の一部を日本医療研究開発機構(AMED)から提供された。またFushimi AFレジストリは、ベーリンガーインゲルハイム、バイエルヘルスケア(論文ママ)、ファイザー、ブリストル マイヤーズ スクイブ、アステラス製薬、アストラゼネカ、第一三共、ノバルティスファーマ、MSD、サノフィ・アベンティス、武田薬品から資金提供を受けている。
KCHFレジストリはAMEDから研究資金の一部提供を受けている。