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【識者の眼】「救急・集中治療終末期ガイドライン改訂⑨─第52回日本救急医学会学術集会シンポジウム『ガイドライン改訂』レポート」伊藤 香

No.5247 (2024年11月16日発行) P.55

伊藤 香 (帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)

登録日: 2024-10-29

最終更新日: 2024-10-29

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10月13〜15日まで仙台で開催された第52回日本救急医学会総会・学術集会において日本循環器学会・日本集中治療医学会・日本緩和医療学会・日本救急医学会合同シンポジウム「救急集中治療終末期ガイドライン改訂〜3学会合同ガイドラインから4学会合同ガイドラインへ」に登壇してきた。当ガイドライン改訂に関して、関連学会学術集会でシンポジウムを行わせて頂くのは、2024年3月の第51回日本集中治療医学会学術集会、6月の第29回日本緩和医療学会学術大会についで3回目となる。

このような形でシンポジウムを行わせて頂いているのは、各関連学会の会員と対面で意見交換しながら論点を整理し、改訂の過程に透明性を持たせたいという気持ちが大きい。各回で総合討論のテーマを決めていて、3月の日本集中治療医学会学術集会のときは「終末期の定義」を、6月の日本緩和医療学会学術大会のときは「人工呼吸器終了時の緩和ケア」をテーマにした。今回のテーマは「time limited trial(TLT)」である。TLTに関しては、6月の本稿(No.5223)にて紹介したことがあるが、いわば、「期限付きの根治的治療」のことである。医療従事者と家族らの間で治療のゴールに関して意見が対立する場合に、患者が望むゴールに向かって改善するか悪化するかを確認するために、両者で合意を得た上で期間を決めて根治的治療を試行する。患者が改善すれば、合意された治療が継続される。患者が悪化した場合、根治的治療から緩和ケア中心の治療へと移行することである。

なぜ、今回のガイドライン改訂でTLTを盛り込むことにしたかというと、救急・集中治療の医療現場では、たとえば患者が救急搬送されてきた直後で予後が明確でなく、患者のadvance care planningや事前指示書が不明な状況で、医師が「この患者さんに挿管したら、抜管できなくなり(集中治療をやめることができなくなり)、無益な延命治療を続けることになってしまうのではないか」と葛藤してしまい、治療の不開始につながり、救えたはずの命を救っていないのではないかという懸念があったからだ。「いちど始めた治療も、やめることができる」という事実をガイドラインに明記することで、結果的に「やめられないから、始めない」を無くすことにつながるのではないかと思っている。

前述の6月の本稿でも述べたことだが、TLTを選択し、結果として根治的治療の終了(例:人工呼吸器の終了・抜管)をするためには、緩和ケアを行える体制が整っている必要がある。今回のシンポジウムでは、緩和医療学会代表の木澤義之教授より、実際に人工呼吸器終了・抜管を行った症例提示をして頂き、そのための準備や投薬内容などの詳細を紹介して頂いた。海外では、いわゆる根治的治療の終了(withdraw)・差し控え(withhold)にまつわる医療に関しての教科書や文献が多数存在するが、日本の医療現場では過去の集中治療終末期に関する刑事事件を連想させるためか、タブー視されているような面もあり、実際行っている施設はあっても、その手法に関しては、あまり公に語られていなかったように見受けられる。

たとえば、米国集中治療学会のガイドライン1)では、“Symptom Management in End-of-Life Care”という項目の中で、抜管時の鎮痛・鎮静薬の具体的な投与法や投与量などを示している。米国においては、緩和ケアが診断名に関係なくすべての患者に適応となるため、集中治療室における根治的治療終了時には緩和ケア専門家の力を借りることもできる。そういった、集中治療終末期にまつわる緩和ケアの知識が浸透し、現場で実践できなければ、知識のない医療従事者が過去の刑事事件のような違法となるwithdrawの方法を選択してしまうような不幸な結末をまねきかねない。

ガイドライン改訂で緩和医療学会にも加わって頂いた最大の目的は、救急・集中治療終末期と緩和ケアが両輪であることをしっかり示していくところにある。

【文献】

1)Truog RD, et al:Crit Care Med. 2008;36(3):953-63.

伊藤 香(帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)[救急集中治療終末期ガイドライン][TLT][緩和ケア]

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