6月21日から4日間、米国フロリダ州オーランドで米国糖尿病学会(ADA)の第84回学術集会が開催された(オンライン併設のハイブリッド形式)。オンラインでも聴講可能セッションに制限はなく、多くの報告に接することができた一方、ディスカッションには深みに欠ける感もあった。ここでは新たな大規模試験、並びに既存報告試験からの若干意外な追加解析などを紹介したい(6月末〜7月初頭のWeb速報に加筆・整理)。
GIP/GLP-1-RAのチルゼパチドは重度の睡眠時無呼吸(OSA)を呈する肥満例の体重を減らすだけでなく、OSAも改善することが、ランダム化比較試験“SURMOUNT-OSA”の結果、明らかになった。Atul Malhotra氏ら(カリフォルニア大学、米国)が報告した。なおこの患者群では、減量に伴う心血管系(CV)リスク減少は観察されなかった。
本試験の対象は、BMI「≧30kg/m2」(日本は「≧27kg/m2」)かつ、無呼吸低呼吸指数(AHI)「≧15回/時」の成人469例である。糖尿病合併例や中枢性OSA例、またOSA/肥満手術予定例は除外されている。234例は陽圧呼吸療法(PAP)非施行、235例はPAP施行下だった。平均年齢は約50歳、女性がおよそ30%を占めた。
肥満度はかなり高く、体重平均値が約115kg、BMI平均は39kg/m2だった。OSA重症度も高く、AHI平均値はPAP非施行群が51.5回/時、施行群で49.5回/時だった。患者背景を報告したRichard J Schwab氏(ペンシルバニア大学、米国)はこの患者群を「日々の臨床で診る患者と大きく異なってはいない」と評価した。しかし質疑応答では「プライマリ・ケアではこのような重症OSAは一般的ではない」という声も上がった。
これら469例は全例が標準的な生活習慣改善指導を受けた上で、PAP施行の有無別にチルゼパチド群(10〜15mg/週目標)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。
52週間観察後、チルゼパチド群ではプラセボ群に比べPAP施行の有無を問わず、AHIは有意に低値となっていた(対プラセボ変化量は、PAP非施行群:-20回/時、施行群:−23.8回/時)。チルゼパチド群における改善は試験開始直後から観察され、両群の差は試験期間を通じて広がり続けた。
チルゼパチド群では体重もプラセボ群に比べ著明かつ有意に低下した。52週間経過後の群間差はPAP非施行群で16.1%、施行群は17.8%である。チルゼパチド群における減量は、試験開始直後から観察され、低下傾向は試験終了の52週間後まで維持された。
なお結果報告にあたったAtul Malhotra氏によれば、体重減とAHI改善が相関しているかどうかは、これから解析予定だという。
チルゼパチド群では、CRP、収縮期血圧ともプラセボ群に比べ有意に低値となった。
なお「CV系重篤イベント(MACE)」も有害事象として「注意深く観察された」(Malhotra氏)が、観察されたのはPAP施行プラセボ群の1例のみだった。
チルゼパチド群の有害事象は消化器症状がメインで、予想外のものはなかった。膵炎も、PAP施行チルゼパチド群に2例を認めたのみだった(いずれも軽症)。
開始肥満度の高低、人種別などの亜集団解析は報告されなかった。
本試験は報告と同時に、NEJM誌のWebサイトで論文が公開された1)。
なお本研究はEli Lillyからの資金提供を受け、同社は試験プロトコル作成にも参加した。また最終著者を含む著者4名は同社に所属し、別の社員2名も論文作成を補助した。
わが国の「糖尿病診療ガイドライン2024」では「脂質異常症を合併した2型糖尿病患者」に対し「糖尿病網膜症の進行抑制に有効である可能性がある」とされているフェノフィブラートだが、脂質異常症合併の有無を問わず「有効」であることが、ランダム化比較試験(RCT)“LENS”の結果、明らかになった。ただし腎機能は低下する。David Preiss氏(オックスフォード大学、英国)が報告した。
LENS試験の対象はスコットランド在住で、非増殖性網膜症/黄斑変性を認めた18歳以上の糖尿病(DM)1151例である。脂質異常症合併の有無は問わない。
平均年齢は61歳、73%が男性だった。DM罹患期間は平均18年、HbA1c平均値は8.2%、26%が1型DMだった。
網膜症は98%が軽症の両眼性で、黄斑変性は片眼性を含め10%に認められた。
脂質異常症は導入基準でないため、トリグリセライド(TG)中央値は140mg/dL弱、HDLコレステロール平均値は51mg/dLだった。ただし75%がスタチンを服用していた。
まずスクリーニングで適格と判断された1484例がフェノフィブラート72.5~145mg/日を約8週間服用(導入期間)した後、推算糸球体濾過率(eGFR)「≧30mL/分/1.73m2」だった上記1151例が、あらためてフェノフィブラート群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。
フェノフィブラートはナノ粒子製剤とし、用量は原則として145mg/日だが、eGFR「<60mL/分/1.73m2」例では同剤を2日に1錠服用した。
4年間(中央値)観察後、1次評価項目である「増殖性網膜症への増悪/糖尿病網膜症治療開始」リスクはフェノフィブラート群で有意に低下し、プラセボ群に対するハザード比(HR)は0.73(95%信頼区間[CI]:0.58-0.91)だった。
両群の発生率曲線は試験開始直後から乖離を始め、3年過ぎまでは緩やかながら乖離を続けた(その後、差は縮小傾向)。このフェノフィブラートによる1次評価項目抑制作用は、「性別」や「年齢の高低」(60歳の上下)、「1、2型DM」などを問わず一貫していた。さらにフェノフィブラートの1日服用量が異なるeGFR「≧60mL/分/1.73 m2」と「<60mL/分/1.73m2」の間でも一貫していた。
一方、腎機能はフェノフィブラート群で有意な低下を認めた。すなわち導入期間前にはおよそ「87mL/分/1.73 m2」だったeGFRだが、導入期間終了時には約「76mL/分/1.73m2」に低下。さらにランダム化後に同薬を中止したプラセボ群では「85mL/分/1.73m2」弱まで回復し、試験終了時も「81.9mL/分/1.73m2」だったが、フェノフィブラート群では回復することなく、試験終了時の値は「73.9mL/分/1.73m2」だった(群間差:7.9mL/分/1.73m2、95%CI:6.8-9.1mL/分/1.73m2)。
脂質代謝、糖代謝ともフェノフィブラート群における変化は非常に小さかった。TGでさえプラセボ群に比べた低下率は14%だった。またHbA1cもプラセボ群とまったく差はなかった。
このように血中代謝マーカーがほとんど動いていないにもかかわらず、1次評価項目に有意差がついた点をPreiss氏は「興味深い」と評した。
同氏はまた、LENS試験で示されたフェノフィブラートによる糖尿病網膜症抑制作用はRCTメタ解析2)と軌を一にするものだと評価し、信頼性は高いとの考えを示した。
本試験は英国国立医療技術評価機構(NICE)から資金提供を受け実施された。
また報告と同時に論文が、NEJM Evidence誌ウェブサイトで公開された3)。
昨年の米国心臓協会(AHA)学術集会でランダム化比較試験(RCT)“SELECT”が報告され、「過体重・肥満例へのGLP-1-RAを用いた減量治療が心血管系(CV)イベントを抑制した」との結果が注目を集めた4)。しかし追加解析の結果、「減量によるCVイベント抑制」には疑問符がついたようだ。テキサス大学(米国)のIIdiko Lingvay氏が報告した。
なお同時に報告されたSELECT試験の追加解析では、GLP-1-RAによる血糖改善作用も、CVイベント抑制との相関が認められなかった5)。そのため本演題が報告されたセッションでは、GLP-1-RAによる過体重/肥満例のCVリスク軽減をもたらしたのは「減量」や「糖代謝改善」というより「多面的作用」によるものという認識が主流となっていた。
SELECT試験[既報分]
既に報告されている通り、SELECT試験の対象は、「45歳以上」で「CV疾患既往」のある「BMI≧27kg/m2」だった「非糖尿病(DM)」1万7604例である。平均年齢は61.6歳、男性が72.3%を占めた。BMI平均値は33.3kg/m2で全体の71.5%が「≧30kg/m2」だった。
これら1万7604例はGLP-1-RAのセマグルチド(2.4 mg/週)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均39.8カ月間観察された。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」は、セマグルチド群でプラセボ群に比べ有意に低リスクとなった(ハザード比:0.80、95%信頼区間[CI]:0.72-0.90)。治療必要数(NNT)は「67」である。なおセマグルチド群におけるこれらイベントの減少は試験開始直後から始まり、減量作用が著明となる以前に観察された(No.5216、p67参照)。
SELECT試験ADA報告
今回報告されたのは探索的追加解析である。試験開始後20週までに「5%以上」減量した例と減量しなかった例に分け、20週以降の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクを比較した。
セマグルチド群では62%が20週までに「5%以上減量」していた。しかしこれら「減量5%以上」例における20週以降の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率曲線は、「減量5%未満」例とほぼ重なり合ったままだった(発生率に差なし)。Lingvay氏は(セマグルチド群では)「試験開始から20週でどれほど減量するかは(CV転帰改善の観点からは)重要でない」とコメントしている。
プラセボ群でも興味深い結果が得られた。当初20週で「減量5%以上」例のほうが「減量5%未満」例に比べ、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率は高かった(検定示されず)。試験開始後4年間観察できた例で比較すると、「減量5%以上」例のほうが「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率はおよそ2%の高値である。この結果についてLingvay氏は、「意図しない減量はおそらく有用(bene-ficial)ではない」と述べている。
ただし本試験ではセマグルチド群、プラセボ群ともCVリスクを減らすべく積極的な生活改善指導(食事と身体活動性を含む)を受けていた。なおフロアからは、減量効果の有無を判定するのに上記の「減量5%」という基準値は低すぎるのではないか、との声も上がっていた。
上記結果とは別に、指定討論者であるShivani Misra氏(インペリアル・カレッジ・ロンドン、英国)は、SELE CT試験の対象があくまでCV疾患既往例である点を強調していた。
ちなみに本学会で報告されたSURMOUNT-OSA試験(本稿TOPIC 1)では、SELECT試験と使用薬剤は異なるものの、肥満例の体重を実薬群でプラセボ群に比べ年間約15kg低下させても、1年間のCVイベント発生率はプラセボ群と同等だった(両群ともほぼ皆無)。同試験は重症夜間無呼吸例を対象としているが、直近のCV疾患既往例は除外されている。
SELECT試験はNovo Nordiskから資金提供を受けて実施された。同社は試験プロトコル作成にも参加し、試験データベース管理と統計解析を担当した(統計は第三者もレビュー)。また同社からは4名が治験運営委員(Steering Committee)、7名が原著者として参加した。
GLP-1-RAのセマグルチドは、2型糖尿病(DM)合併高リスク慢性腎臓病(CKD)例に対する心腎イベント抑制作用が、ランダム化比較試験(RCT)“FLOW”で確認されている6)。ただし少数例だがSGLT2阻害薬併用例のみで比較すると、プラセボ群に比べ心腎イベントは若干の増加傾向が見られた(ハザード比[HR]:1.07、95%信頼区間[CI]:0.69-1.67)。
このSGLT2阻害薬併用の有無による影響を検討した追加解析が、Johannes F. Mann氏(エアランゲン大学、ドイツ)により報告された。減弱しているとすれば腎保護作用のようだ。
FLOW試験[既報分]
FLOW試験の対象は、心腎リスクのきわめて高い2型DM合併CKD 3533例である。セマグルチド群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で3.4年(中央値)観察された。
その結果、1次評価項目である「心腎イベント」(「腎不全」「28日以上持続する50%以上のeGFR低下」「腎関連死亡」「CV死亡」)リスクはセマグルチド群でプラセボ群に比べ相対的に24%、有意に低下していた(治療必要数:3年間で20)。
FLOW試験ADA報告(SGLT2阻害薬併用の有無別解析の詳細)
1次評価項目である上記「心腎イベント」のリスクは、試験開始時にSGLT2阻害薬を「非併用」の2983例では、セマグルチド群でプラセボ群に比べ相対的に27%、有意に低下していた(発生率:19.5 vs. 22.2%)。
一方、SGLT2阻害薬「併用」の550例で比較すると、逆に、セマグルチド群でプラセボ群に比べ相対的に7%だが相対リスクの上昇傾向を認めた(発生率:14.8 vs. 14.4%)。両群の発生率曲線は、試験終了までほぼ乖離することなく推移した。
ただし交互作用を調べると、セマグルチドによる心腎イベント抑制作用はSGLT2阻害薬の有無に有意な影響を受けていなかった(交互作用P=0.109)。
Mann氏はSGLT2阻害薬併用別の上記イベント内訳を明らかにしなかった。そこで学会での発表と同時に公表されたNat Med誌7)から引くと、SGLT2阻害薬併用例ではセマグルチドによる腎保護作用に減弱傾向が見られた。
すなわち「腎不全」の対プラセボ群のHRは、SGLT2阻害薬「併用」例で1.18(95%CI:0.64-2.19)、「非併用」例なら0.78(95%CI:0.61-0.99)だった。同様に「28日以上持続する50%以上のeGFR低下」のHRも、SGLT2阻害薬「併用」例で1.30(95%CI:0.76-2.26)、「非併用」例で0.66(95%CI:0.53-0.83)だった(ただしいずれも、SGLT2阻害薬の有無による有意な交互作用はなし)。
対照的に「CV疾患死」は、SGLT2阻害薬の「併用」例でもセマグルチド群における対プラセボ群のHRは0.68(95%CI:0.28-1.57)、「非併用」例でも0.71(95%CI:0.56-0.91)だった。
なお同セッションにおいて、Katherine R Tuttle氏(ワシントン大学、米国)は、最新のSMART-Cメタ解析から、上記の結果とは逆に、GLP-1-RA併用の有無はSGLT2阻害薬の腎保護作用に影響を及ぼさない可能性を示した。SMART-Cは、プラセボ対照SGLT2阻害薬RCTを患者レベルデータで共有・メタ解析する連合体である。
それによれば、対象はすべて心疾患例のRCTだが、SGLT2阻害薬群における腎イベントの対プラセボ群HRは、試験開始時GLP-1-RA「併用」(2984例)で0.65(95%CI:0.46-0.94)、「非併用」(7万122例)でも0.67(95%CI:0.62-0.72)だった。
質疑応答では、セマグルチドの「心腎保護作用」にSGLT2阻害薬併用の有無が与える影響を「交互作用の有無」だけで判断してよいかという声が上がった。SGLT2阻害薬併用例が550例と少なかったため、「検出力不足」への懸念があるという。これに対し壇上討論者からは、RCT“AMP LITUDE-O”8)でも、GLP-1-RAの心腎保護作用はSGLT2阻害薬併用の有無に影響を受けていなかった旨、コメントがあった。にもかかわらずフロアからは、SGLT2阻害薬併用の有無が与える影響についての、さらに詳細な解析を求める声が続いた。
FLOW試験はNovo Nordiskから資金提供を受けて実施された。同社はプロトコル作成に参加し、統計解析を担当(第三者が検証)、論文草稿に対するレビュー/アドバイスも行った。また3名が治験運営委員(Steering Com-mittee)に名を連ねた。ただし内容・出版に関する最終決定権は原著者たちに留保されていた。なお原著者中4名は同社所属だった。
SGLT2阻害薬併用の影響を検討した論文は先述の通り、報告と同時にNat Med誌Webサイトで公開された7)。また、SMART-Cメタ解析も学会終了後、Lancet Diabe-tes Endocrinol誌に掲載された9)。
GIP/GLP-1-RAのチルゼパチドは、CV高リスクの過体重/肥満2型糖尿病(DM)例に対する推算糸球体濾過率(eGFR)低下抑制作用とアルブミン尿改善作用が、ランダム化比較試験(RCT)“SURPASS-4”から示唆されている10)。しかしCVリスクが高くない場合、eGFR低下抑制は期待できないかもしれない。Hiddo J. L. Heerspink氏(フローニンゲン大学、オランダ)がRCT“SURMOUNT-2”後付解析の結果として報告した。
SURMOUNT-2試験の対象は、BMI「≧27kg/m2」の2型DM 938例である。ただしインクレチン関連薬使用例は除外されている。日本を含む7カ国から登録された。平均年齢は54.2歳、女性が51%を占めた。BMI平均値は36.1kg/m2、平均体重は100.7kgだった。動脈硬化性疾患例は少なく、全体の10%のみだった。また血圧平均値は130.5/79.8mmHg、HbA1c平均値は8.0%だった。
これら938例はチルゼパチド群(10mg/日群、15mg/日群)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で72週間観察された。今回後付解析されたのは腎機能とアルブミン尿に対する影響である(主解析ではチルゼパチドの有意な減量作用を確認11))。
72週間にわたるeGFRの推移は、チルゼパチド群とプラセボ群間でまったく差を認めなかった(チルゼパチド群:98.3→95.8mL/分/1.73m2、プラセボ群:96.4→ 96.0mL/分/1.73m2)。クレアチニンではなくシスタチンCから推算したGFRでも同様だった。またチルゼパチド群、プラセボ群を問わず、クレアチニンeGFRの変化幅は試験開始後の体重減量幅とはまったく相関していなかった。
一方、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の72週間後低下率は、チルゼパチド群で有意に大きかった(45.5 vs. 20.9%)。両群間の有意差は、試験開始24週後の時点で認められた。
同様に72週間後における「微量アルブミン尿から正常アルブミン尿」への改善割合を比べると、チルゼパチド群では開始時の24.6%中12.4%(50.4%)で認められ、プラセボ群の24.1%中5.7%(23.7%)よりも高値だった(検定なし)。UACR改善と体重変化の相関については言及がなかった。
質疑応答では「SGLT2阻害薬併用の有無」で、チルゼパチドによる腎保護作用に差があったかが問われた(本試験では20%がSGLT2阻害薬を併用)。
Heerspink氏によればチルゼパチドによるUACR低下作用は、SGLT2阻害薬併用の有無に影響を受けていなかったとのことだ(データ提示なし)。
同氏はさらに本学会で報告されたRCT“FLOW”追加解析〔GLP-1-RAによる心腎保護作用にSGLT2阻害薬併用の有無が及ぼす影響を検討(本稿TOPIC 4)〕にも言及し、GLP-1-RAとGIP/GLP-1-RAでは腎保護作用機序が異なっている可能性も指摘した。
なおチルゼパチドによる長期間の腎保護作用をプロスペクティブに評価する試験として同氏は、RCT“SUR MOUNT-MMO”を挙げた。2次評価項目として評価されるという。同試験はCV高リスク非DM肥満例に対するチルゼパチドのCVイベント抑制作用をプラセボと比較するのが主目的で、2027年終了予定である12)。
SURMOUNT-2試験はEli Lilly and Companyから資金提供を受けて実施された。また同社からは主解析論文に、原著者として最終著者を含む6名が参加した。
SGLT2阻害薬は2型糖尿病(DM)例の心不全(HF)入院減少作用が、ランダム化比較試験(RCT)から報告されている。ただし対象はすべて心血管系(CV)疾患既往、ないし複数のCVリスク因子を有するCV高リスク例である13)。
ではCV低リスクならばどうか。SGLT2阻害薬はやはり、他の血糖降下薬に比べHF入院を抑制するようだ。米国大規模実臨床データ解析の結果として、Helen Tesfaye氏(ブリガム・アンド・ウィミンズ病院、米国)が報告した。
解析対象となったのは米国在住で、以下の4種類の血糖降下薬のいずれかを開始した、CV疾患既往のない2型DM例およそ150万例である。CV疾患既往例は除外されているが、CVリスク因子の有無は問わない。診療報酬情報(高齢者公的保険と2民間保険)に基づくデータベースから抽出した。
これら約150万例を以下の6グループに分け、「HF入院」リスクを比較した。グループ分けにあたっては、傾向スコアを用いて背景因子がそろう組み合わせを抽出した。
平均年齢は60歳弱、約半数が女性だった。人種としては白人が圧倒的に多く約70%を占めた。血糖降下薬はおよそ80%がメトホルミンを併用していた。またCVリスク因子としては、高血圧、脂質異常の合併率がいずれも約70%だった。推算糸球体濾過率平均値は概ね90 mL/分/1.73m2だった。
平均11カ月の観察期間後、HF入院リスクが最も低かったのは「SGLT2阻害薬」だった。すなわち、GLP-1-RA群と比べてもハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.51-0.82)、発生率は0.98 vs. 1.61/1000人年だった。
同様に対DPP-4阻害薬のHRも0.45(95%CI:0.36-0.56)、発生率は0.91 vs. 2.17/1000人年。対SU剤ならHRは0.46(95%CI:0.38-0.60)、1.05 vs. 2.25/ 1000人年だった。
SGLT2阻害薬に次いで「HF入院」リスクが低かったのは「GLP-1-RA」である。対DPP-4阻害薬HRは0.71(0.58-0.87)、発生率は1.62 vs. 2.35/1000人年だった。
一方、DPP-4阻害薬とSU剤間では「HF入院」リスクに有意差はなかった。なおメトホルミン非併用例のみを対象とした比較結果は、提示されなかった。
本研究はPatient-Centered Outcomes Research-Institute(臨床試験出資非営利団体)から資金提供を受けた。試験のデザイン設計・実施・解釈は原著者らが100%担当した。
中枢に作用する食欲抑制薬としては約15年前、カンナビノイド受容体阻害薬Rimonabantが欧州では一時期使用されていたが、自殺リスクへの懸念から発売中止となった(米国では未承認)。そのためだろうか、まったく機序が異なるGLP-1-RAに対しても、同様の懸念を持つ向きがあった。しかし欧州医薬品局(EMA)は本年4月に、「GLP-1-RAと自殺/自傷念慮・実行間の因果関係を支持するエビデンスはない」とする報告書を公表した14)(米国食品医薬品局は本年3月時点で結論に至らず15))。
この点を検討した大規模観察研究が報告された。少なくとも高齢者ではGLP-1-RAによる自殺/自傷リスクの上昇はないようだ。Huilin Tang氏(フロリダ大学、米国)が報告した。
解析対象となったのは、66歳以上でGLP-1-RAかSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬のいずれかを開始した2型糖尿病(DM)およそ15万例である。高齢者公的保険(メディケア)受給例から任意抽出した。ただし「自殺念慮・試行」の既往がある例は除外されている。
これら約15万例から、傾向スコアで背景因子をマッチさせた「GLP-1-RA vs. SGLT2阻害薬」(2万1807例ずつ)と「GLP-1-RA vs. DPP-4阻害薬」(2万1402例ずつ)を抽出した(ただしHbA1cとBMIはマッチできず)。評価項目は「自殺念慮・試行と自傷」である。平均年齢は73歳、女性が半数超だった。
両剤間に「自殺念慮・試行と自傷」リスクの差はなかった。すなわちGLP-1-RA群のハザード比(HR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.80-1.45)。発生率は3年間で0.7%弱だった。
こちらも同様に両群間の「自殺念慮・試行と自傷」リスクに差はなかった。GLP-1-RA群のHRは0.94(95%CI:0.71-1.24)である。発生率はこちらのコホートでも3年間で0.8%弱だった。
いずれの解析でも、結果はさまざまなサブグループに共通しており、個々のGLP-1-RA間にも差はなかった。
今回の解析は高齢者の2型DM例が対象であるため、Tang氏はこの結果が「若年者」や「非DM(肥満)例」に当てはまるかは不明だと考察していた。なお本研究で観察された「自殺念慮・試行と自傷」発生率は、ランダム化比較試験データ併合から明らかになったGLP-1-RAに伴う「自殺念慮・試行」率(0.2/100人年)にも近い16)。
本学会では、セマグルチド2.4mgを8803例が使用したSELECT試験の長期観察有害事象データが、Tina Vilsbøll氏(コペンハーゲン大学、デンマーク)から報告されている。それによれば3年超使用後の「自殺(念慮・試行・遂行)」発生率はセマグルチド群、プラセボ群とも0.1%で同等だった。
なお、本解析に関する利益相反は開示されなかった(報告者の受けたグラントのみ)。なお本解析は学会終了後、Ann Intern Med誌に掲載された17)。
【文献】
1)Malhotra A, et al:N Engl J Med. 2024;doi:10.1056/ NEJMoa2404881
2)Preiss D, et al:Diabetes Care. 2022;45(1):e1-2.
3)Preiss D, et al:NEJM Evid. 2024;doi:10.1056/EV IDoa2400179
4)Khera A, et al:N Engl J Med. 2023;389(24):2287-8.
5)Linvay I, et al:Diabetes Care. 2024;dc240764.
6)Perkovic V, et al:N Engl J Med. 2024;391(2):109-21.
7)Mann JF, et al:Nat Med. 2024;doi:10.1038/s41591-024-03133-0
8)Neves JS, et al:J Am Coll Cardiol. 2023;82(6): 517-25.
9)Apperloo EM, et al:Lancet Diabetes Endocrinol. 2024;12(8):545-57.
10)Heerspink HJL, et al:Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10(11):774-85.
11)Garvey WT, et al:Lancet. 2023;402(10402):613-26.
12)ClinicalTrials. gov ID:NCT05556512.
13)Wahinya M, et al:Cureus. 2023;15(4):e37388.
14)EMA公式サイト:Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC)8-11 April 2024(2024年4月12日).
15)FDA公式サイト:Update on FDA’s ongoing evaluation of reports of suicidal thoughts or actions in patients taking a certain type of medicines approved for type 2 diabetes and obesity(2024年3月8日).
16)O’Neil PM, et al:Diabetes Obes Metab. 2017; 19(11):1529-36.
17)Tang H, et al:Ann Intern Med. 2024;doi:10.7326/M24-0329