糖尿病による網膜血管の慢性器質的・機能的障害であり,血流低下によって網膜虚血が進行すると新生血管が出現する。新生血管の脆弱性に起因する網膜出血,出血の繰り返しによる線維血管増殖膜の出現,増殖膜による網膜牽引からの網膜剝離,さらに隅角での新生血管出現による房水流出障害からの新生血管緑内障など多彩な病態を示し,いずれも視機能の障害をもたらす。なお,網膜血管から漿液成分が漏出し中心視力の責任領域である網膜黄斑部に浮腫が生じて視力低下をきたす糖尿病黄斑浮腫は,網膜症の進行度にかかわらず発症することが特徴である。
新生血管出現の有無によって治療方針が異なるため,網膜症の進行度を把握する必要がある。
まずは,原疾患である糖尿病の状態を把握するため,血糖値,HbA1c,網膜症の増悪に影響の大きい腎機能の指標であるeGFRなど,全身検査を行い,可能な限り糖尿病内科医と診療情報の共有化を行う。その上で網膜症の進行度を把握し,新生血管が出現していなければ予防的に,出現していれば対症的に治療を行う。なお,視機能障害が出現していなければ計画的に,出現していれば可及的速やかに治療を行う1)。
網膜虚血および新生血管の出現を,早期に,かつ確実に把握することが肝要であり,これによって治療方針を決定していく。蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)は両者の把握に威力を発揮し,前者(網膜虚血)は無灌流領域と呼ばれるコントラストの低い領域として,後者(新生血管)は蛍光強度の高い漏出の旺盛な領域として確認できる。なお,FAはフルオレセインナトリウムを静注する必要があり,患者によってはアレルギー反応がみられることがある。この場合,光干渉断層血管造影(optical coherence tomography angiography:OCTA)による非侵襲的検査で代用することもできるが,虚血領域や新生血管の確認には,やや工夫や経験が必要である。
治療の中心は網膜光凝固となる。虚血領域では視細胞の栄養需要に対して,栄養供給である血流量が不足している状態であり,光凝固によって視細胞数を選択的に熱破壊し,数を減少させることで,相対的に網膜虚血を改善する目的で行う。ただし,熱破壊による二次的炎症が黄斑浮腫を引き起こす危険性が報告2)されており,広範囲に照射する場合は,照射前にステロイドの局所投与などを検討する必要がある。なお,糖尿病黄斑浮腫の治療薬である抗VEGF薬によって新生血管の活動性を著しく抑制できることが報告3)されており,保険適用に向けて治験が進められている。
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