2型糖尿病(DM)に対する収縮期血圧(SBP)「120mmHg未満」を目指す厳格降圧治療は、2010年に欧米で実施された大規模ランダム化比較試験(RCT)"ACCORD"において、「SBP<140mmHg」目標の通常降圧治療に比べ、心血管系(CV)イベントを抑制しなかった。しかし同試験には検出力不足などいくつかの問題点も指摘されており、新たなRCTによる再検討が待たれていた。
その待望のRCTが、11月16日から米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で発表された。報告者はGuang Ning氏(上海第二医科大学、中国)。2021年欧州心臓病学会で報告されたSTEP試験[NEJM]に続き、再び中国発のエビデンスが積極降圧の有用性を支持する形となった。
BPROAD試験の対象は、中国在住でCV高リスクの2型DM例中、SBPが「降圧薬非服用で140mmHg以上」「降圧薬服用で130mmHg以上」だった1万2821例である。登録は二次、三次医療施設で実施された。プライマリケア施設は含まれていない。いずれの施設も年間500例以上の2型DM例を診療し、さらに複数の高血圧専門医勤務が条件だった。
平均年齢は64歳、女性が45%を占めた。血圧平均値は140/76mmHg。99%が降圧薬を服用していた(平均1.4[±0.6]剤)。CV疾患既往率は症候性が23%、無症候性は35%。「推算糸球体濾過率(eGFR)<60mL/分/1.73m2」例は7.6%だった。なおDM罹患期間平均値は10年、HbA1c平均値は7.6%である。
これら1万2821例は、SBP降圧目標「120mmHg未満」群と「140mmHg未満」群にランダム化され、非盲検下で観察された。降圧目標を達成するために、SPRINT試験と同様のアルゴリズムを用いた。なお降圧目標「140mmHg未満」群では降圧薬の「減量」も許された。
・血圧
両群とも血圧は速やかに低下した。特に降圧目標「140mmHg未満」群では試験開始翌月にはSBP平均値が135mmHg未満まで低下し、試験終了時まで維持された(観察期間平均:132mmHg、中央値:134mmHg)。一方「120mmHg未満」群でも、試験開始翌月にはSBP平均値が130mmHg未満まで低下、1年後には122mmHgまで低下したが、その後の「120mmHg未満」達成率は60%前後で推移した(観察期間平均:121mmHg、中央値:118mmHg)。
なおアルゴリズム上、目標血圧に到達するまでは降圧薬調整のため毎月の受診が必要とされた(達成後は3カ月に1回)。そのため数字は報告されなかったが、受診回数は「120mmHg未満」群のほうが相当に多かったと推測される。
使用降圧薬の平均数(試験終了時)は、「140mmHg未満」群が1.4剤、「120mmHg未満」群でも2.2剤だった。なおDM例が除外されていたSPRINT試験でも、140mmHgのSBPを121mmHgへ低下させるのに平均2.8剤を要した。2型DM例を対象としたACCORD試験では、139mmHgから119mmHgへの降圧に要した薬剤数は3.4剤だった。一方、DM合併の有無を問わない中国人高血圧例を対象としたRCT"STEP"では、146mmHgだったSBPが平均1.9剤で127mmHgまで低下していた。
・臨床イベント
4.2年間(中央値)の観察後、1次評価項目の「脳卒中・心筋梗塞・心不全加療/入院・CV死亡」(CVイベント)リスクは、降圧目標「120mmHg未満」群で「140mmHg未満」群に比べ、相対的に21%、有意に減少していた(ハザード比(HR):0.79、95%CI:0.69-0.90)。治療必要数(NNT)は年間228例である。両群のカプランマイヤー曲線は試験開始後1年を待たずに乖離を始め、試験終了までわずかながらも差は開き続けた。
降圧目標「120mmHg未満」群におけるCVイベントリスク減少は、「年齢」「性別」「CV疾患既往歴の有無」「CKD履歴の有無」を問わず一貫していた。さらに開始時SBPの高低にも影響を受けていなかった。
1次評価項目中の発生率最多イベントは両群とも「脳卒中」(致死性/非致死性)で、「120mmHg未満」群におけるHRは0.79(95%CI:0.67-0.92)だった(NNT:323/年)。なお「総死亡」リスクには、両群間で有意差はなかった(「120mmHg未満」群HR:0.95、95%CI:0.77-1.17)。
・安全性
重篤有害事象の発現率は「症候性低血圧」「失神」「急性腎不全」を含め、両群間に有意差はなかった。ただし「高カリウム血症」発現は「120mmHg未満」群で有意に多かった(害必要数:125)。
指定討論者のDorairaj Prabhakaran氏(慢性疾患管理センター、インド)はDM例に対する積極的降圧の有用性を認めながら、「費用対効果」の検討も必要だと指摘した。なお総合討論では残念なことに、時間の関係から本試験は取り上げられなかった。
本試験は中国各種公的機関から資金提供を受けた。製薬会社からの提供はない。また学会報告と同時に、論文がNEJM誌Webサイトで公表された。