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■NEWS 【米国心臓協会(AHA)】MI後PCI施行例のCV転帰をスピロノラクトンは改善せず:RCT“CLEAR-SYNERGY”

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2024-12-15

最終更新日: 2024-12-13

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慢性心不全(HF)治療では「ファンタスティック4」と呼ばれる4種の心保護薬がある。しかしいずれも、急性心筋梗塞(MI)後(亜)急性期開始による心血管系(CV)転帰改善は証明されていない。すなわち左室機能維持例に対するβ遮断薬の有用性はランダム化比較試験(RCT“REDUCE-AMI”で否定され、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬を用いたRCT“PARADISE-MI”SGLT2阻害薬の“EMPACT-MI”でも、1次評価項目である「(CV)死亡・HF入院」抑制は確認されなかった。

唯一残っていたのがミネラルコルチコイド受容体拮抗薬だったが、RCT“CLEAR-SYNERGY”においてスピロノラクトンは、MI例[±左室機能低下]の「CV死亡・HF入院」を抑制しなかった。1116日から米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会にて、Sanjit S Jolly氏(マクマスター大学、カナダ)が報告した。

【対象】

CLEAR-SYNERGY試験の対象はPCI施行から72時間以内のMI 7062例である(当初の導入基準はSTEMI[左室機能は問わず]のみ。途中で症例数を増やすために高リスク[含:左室機能低下]NSTEMIを追加)。欧米、豪州、ネパール、エジプトの14カ国から登録された。

平均年齢は61歳、女性は20%MI類型はSTEMI95%を占めた。発症時「Killip分類Ⅱ」だったのは0.7%、またHF既往例も0.8%のみだった。抗血小板薬とスタチンはほぼ全例が服用し、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用率も8割近く、β遮断薬は7割近くが服用していた。

【方法】

これら7062例はスピロノラクトン(25mg/日)群(3537例)とプラセボ群(3525例)にランダム化され、二重盲検法で観察された。なおスピロノラクトンはRCT“EPHESUS”で、MI後左室機能低下例における13%の有意な「総死亡・CV入院」相対リスク減少が報告されている。

【結果】

・有効性

3.0年間(中央値)観察後、1次評価項目である「CV死亡・全HF(発症/増悪)」と「CV死亡・初発MI/脳卒中/HF」はいずれも、スピロノラクトン群とプラセボ群間に有意差を認めなかった(スピロノラクトン群におけるハザード比[HR]はそれぞれ0.8995%CI0.73-1.08]と0.95[同:0.80-1.12])。この結果は、事前設定されたすべての亜集団で一貫していた。

ただしイベントを個別に比較すると、「HF発症/増悪」リスクのみならばスピロノラクトン群で有意にリスクは低下していた(HR0.6995%CI0.49-0.96。治療必要数[NNT]:125)。この有意差は、実際に割り付け治療を受けた例のみを対象とした感度解析でも維持された。

なお本試験は「2×2」デザインで、低用量コルヒチンの有用性をプラセボと比較している。しかしコルヒチン併用の有無とスピロノラクトンの作用間に、有意な交互作用はなかった。

・安全性

有害事象としては、「服薬中止を要する高カリウム血症」(害必要数:96)と「女性化乳房」(同:56)がスピロノラクトン群で有意に多かった。また試験薬中止率は、スピロノラクトン群が28%、プラセボ群は24%だった(検定なし)。ただしJolly氏によれば、この服薬中止は必ずしもスピロノラクトンによる有害事象が原因とは限らないという。「2×2」デザインでコルヒチンを服用している例に有害事象が起こると、コルヒチンだけでなくスピロノラクトン(とそのプラセボ)も服用をやめてしまう例が一定数いたという。

【考察】

指定討論者のMarc P. Bonaca氏(コロラド大学、米国)は、1次評価項目に有意な群間差を認めなかった理由として、対象患者のCVリスクが想定以上に低く、そのため検出力が不足していた可能性を指摘した。事実、本試験ではイベント発生率が当初想定よりも相当に低かったため、サンプル数を試験途中で3000例増やしている。それでもまだ、検出力不足が疑われるという。

同氏によれば、プラセボ群における年間CV死亡率は、前出のEPHESUS試験では10.7%/年だったのに対し、本試験では1.7%のみである。本試験ではMI急性期に全例がPCIを受け(2003年報告のEPHESUS試験では再灌流/血行再建を合わせて45%)、抗血栓療法と心保護療法も2000年当初に比べれば進歩している。「その上に新たな治療を加えても有用性を観察するのは難しいだろう」とBonaca氏は述べた。

一方、パネルディスカッションでは、本試験の「Killip分類Ⅱ」・HF既往例とも1%未満だった点に着目し、実臨床なら「Killip分類Ⅱ」であれば(HF予防を目的として)スピロノラクトンを用いるべきでは、との声が上がった。これに対してはJolly氏も、「HF発症高リスクであれば用いるべきだ」との考えを示した。

本研究は報告と同時に論文が、NEJM誌Webサイトで公開された。

本試験は研究者主導で実施され、カナダ保健研究機構とボストン・サイエンティフィック、公衆衛生研究所の支援を受けた。

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