糖尿病病態が心臓組織にも特徴的なリモデリングをもたらすことは,「糖尿病性心筋症」という症例報告または基礎研究モデルとして知られるが,保険病名ではない。臨床的には過去約10年で,糖尿病治療薬の心不全への影響に関するエビデンスが充足してきたこともあり,糖尿病合併心不全患者に対する薬剤選択や配慮すべき点が明らかになってきた。
糖尿病患者における初回診断時の心臓超音波検査による左室機能評価,NT-proBNP/BNP,心不全入院歴/既往歴による心不全ステージ評価は,予後予測ならびに治療薬選択において重要である。同様に,合併症の有無についても配慮が必要となる。糖尿病性心筋症の組織学的特徴を評価するモダリティは,現時点では心臓MRIが最も有用だが,その評価を治療に活かすエビデンスはなく保険適用もない。
糖尿病合併心不全の治療について配慮すべき点を以下に記す。
①心不全増悪リスクのある糖尿病治療薬を避ける
具体例:ピオグリタゾン(うっ血増悪リスクあり),SU薬・インスリン(RCTはないがメトホルミン使用に比し死亡率上昇のエビデンスあり。低血糖リスクが高い),DPP-4阻害薬〔サキサグリプチンは心不全に禁忌(海外・日本ではサキサグリプチン・アログリプチンにはNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳに対する注意喚起のみ)。一方,シタグリプチンやリナグリプチンは心血管イベントには影響なく,リナグリプチンについてはサブ解析でDKD(diabetic kidney disease)合併心不全悪化抑制に有用である可能性がある。日本人を対象とした後ろ向き研究では,DPP-4阻害薬が糖尿病合併HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)患者の心不全悪化を低減するエビデンスがある〕。
②合併する糖尿病性腎症の管理
いわゆる心腎連関が,糖尿病合併心不全患者では特に重要となる。糖尿病性腎症の悪化を低減するエビデンスのある薬剤は,フィネレノン,GLP-1受容体作動薬,SGLT2阻害薬であるが,その中でも心不全に対する管理がより重視される場合は,唯一エビデンスのあるSGLT2阻害薬が選択となろう。フィネレノンは心不全患者に対するRCT試験中であり,結果がまだ出ていない。GLP-1受容体作動薬の中でもセマグルチドについては肥満合併HFpEFに有効であるRCT結果はあり,さらに最近,腎保護アウトカムについてもFLOW試験の結果が出た。ただし,リラグルチドに関しては,2週間以内の心不全入院歴のある心不全ステージB/CのHFrEF(heart failure with reduced ejection fraction)患者への使用は,心拍数増加の影響や心不全症状を悪化させるデータがあり,非代償期の心不全患者への投薬は注意が必要である。現時点で「DKD合併あり・なし」「左室収縮能の程度」「心不全ステージ」にかかわらず,SGLT2阻害薬は糖尿病合併心不全の悪化低減に対し有用であるエビデンスが整っている。
③糖尿病による心筋リモデリング〔主に心筋線維化・心筋微小循環障害・心筋への中性脂肪蓄積(cardiac steatosis)〕を直接治療する薬剤はまだない
心筋リモデリングに対しては予防が重要である。特にHFpEFについて肥満は最大リスクのひとつであり,この点および基礎研究結果をもとに判断すると,SGLT2阻害薬,GLP-1受容体作動薬には長期的に心筋リモデリング進行に対する抑制効果が期待できる。
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