(概要) 日本老年学会が6月に横浜市で開催する学会総会で、「高齢者」の定義見直しに向けた議論を行う。医学的な観点から「高齢者」として妥当な年齢を検討していく方針だ。
日本老年医学会(大内尉義理事長)など7学会で構成する日本老年学会は11日、現在65歳以上とされる「高齢者」の定義見直しに向けた議論を本格的に開始する方針を示した。同日開いたプレスセミナーで明らかにした。6月の老年学会総会で「新しい高齢者の定義」と題するシンポジウムを開催、同学会の問題提起をきっかけに、65歳からの基準引上げを巡る国民的な議論につなげたい考えだ。
●「65歳」はビスマルク時代の遺物
6月のシンポで講演する国立長寿医療研究センター副院長の荒井秀典氏は、「6月の総会では高齢者に関する調査結果をまとめたデータを示し、医学的な観点から高齢者の定義として何歳からが妥当なのか考えていきたい」と述べた。新たな定義の具体的な年齢については「打ち出す段階ではない」としながらも、「国民的な議論のきっかけとなればいいと思う」と期待を込めた。
同センター理事長特任補佐の鈴木隆雄氏は「高齢者が65歳以上というのは1890年頃にドイツの宰相ビスマルクが老齢年金の対象を65歳以上としたことが始まりで、その時代の遺物」と説明。その上で鈴木氏は、「多くは65歳を超えても就労意欲があり、それに適応できる体力を持っていることは科学的に証明されている」と述べ、超高齢社会を乗り切る不可欠な要素として「高齢者が働きやすい社会の実現を目指す必要がある」と強調。「まだまだ活躍できる人を一律に65歳で高齢者と定義することは社会的に損失が大きい」との考えを示した。
●フレイルは歩行速度が顕著に低下
プレスセミナーでは荒井氏が、日本老年医学会が昨年5月に提唱した「フレイル」について解説。フレイルは英語の「frailty」(虚弱)を由来とする造語で、健常な状態と要介護状態の中間を指す。しかし、フレイルの状態が続くと多くが要介護状態に移行してしまうことから、同学会は積極的な予防を訴えている。
荒井氏は、「超高齢化社会におけるフレイルの意義」をテーマに、フレイルの代表的な評価法として米国のLinda Friedらの手法を紹介。この評価法では、(1)体重減少(1年間に4.5キロ以上)、(2)倦怠感、(3)筋力低下、(4)歩行速度の低下、(5)身体活動性の低下─のうち3つ以上該当すればフレイル、1つか2つであればその前段階と評価するが、このうち「最も影響があるのは歩行速度の低下」と述べた。
荒井氏はこれに加え、フレイルにはうつや認知症など「精神・心理面」や孤独など「社会的な側面」も含まれることから、介護予防事業で使用される生活機能低下スクリーニングの基本チェックリスト(25項目)が有用とし、私見として「8点以上がフレイルに該当するのではないか」との考えを示した。その上で「フレイルは要介護のリスク要因だが、運動や食事による改善効果があり、予防が重要」と述べた。
【記者の眼】「高齢者=65歳以上」という定義の見直しは社会保障制度の持続可能性に大きく関わる問題だ。財政健全化を目指し社会保障費を抑制したい政府もこの動きを後押しすることは間違いない。「70歳」への引上げを目安として議論が展開しそうだ。(T)