(概要) 大学病院などで相次ぐ医療事故を受け、厚労省はすべての特定機能病院に対し集中立入検査を6月から実施する。ガバナンスなど医療安全体制について実態を把握する。
東京女子医大病院と群馬大病院の特定機能病院承認取消しを受け設置された「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」(本部長=塩崎恭久厚労相)が14日、初会合を開催した。
承認要件の見直しを視野
特定機能病院は現在計86病院。承認要件には、高度医療の提供能力の有無や病床数、診療科目、医師やコメディカルの配置基準などがあり、医療法に基づき、地方厚生局が年1回立入検査を行っている。今回、東女医大病院と群大病院の事案を受け、全86病院に対し、通常検査とは別に6月から集中立入検査を実施する。タスクフォースでは集中立入検査の結果を踏まえ、秋以降に承認要件の見直しなどについて検討する予定だ。
タスクフォースには外部有識者として、社会保障審議会医療分科会の楠岡英雄会長と金融検査に詳しい中央大の野村修也教授、NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長の3氏が顧問に就任。初会合では、3氏がそれぞれの立場から集中立入検査のあり方について意見を述べた後、厚労省医政局地域医療計画課が提示したたたき台を基に協議を行った。
「実態把握なくして信頼回復はない」
冒頭に挨拶した塩崎厚労相は、「全国すべての大学病院等の医療安全に関する管理・運営の実態を、適切かつ速やかに把握をする必要がある。それなくして国民からの信頼回復はありえない」と強調した。
意見交換では、顧問の楠岡氏が、両病院について「特定機能病院の承認取消しが相当」とする医療分科会の意見書を説明。分科会での議論を踏まえ、「医療安全管理部門が機能していなかったことに大変危機感を持っている」と述べた。野村氏は、年1回の立入検査が書類ベースの「事後チェック」で行われている点を問題視。金融機関への立入検査の事例を紹介し、組織として「将来のリスクに備えられるか」という観点から評価することが重要とした。
厚労省医政局は、集中立入検査において確認すべき事項として、(1)ガバナンス、(2)高難度新規医療技術、(3)インフォームド・コンセント─の3点を挙げ、それぞれについて「ルールが定められているか」「そのルールに基づいて実際に運用されているのか」という観点から確認する方向性を提案。これを受け、山口氏は医療機関の外部評価に携わった経験から「ルールが存在しても形骸化している恐れがある。存在の確認だけでなく、具体的な取り組みをヒアリングで調査すべき」と強調した。
会合ではこのほか、山口氏が大学病院の問題点として「各科が別組織で、科の力関係が治療にも影響を及ぼす。他科と連携していないケースも見られる」と指摘。こうした組織文化がガバナンスに与える影響は大きいとして、今回の調査では「組織の雰囲気を含めた医療機関の実態把握を目的にすべき」との考えを示した。
【記者の眼】
今回の立入検査では、結果が悪くても指導や処分を行わず、実態把握が主な目的だ。特定機能病院は患者申出療養の拠点にもなる存在。問題を浮き彫りにすることで医療安全体制の確保につなげ、先進的な医療が受けられる体制作りを急がなければならない。(T)