(概要) ジカ熱に対する警戒が国内でも高まっている。厚生労働省は臨床医がジカ熱を疑う症例の要件を提示。また、輸入症例の確認を受け、患者発見の経緯を現場に周知する見通しだ。
●輸入症例診察の医師は皮疹から疑った
ジカ熱は2月15日に感染症法の4類感染症に指定され、医師に全数報告が義務化された。
また、厚労省は24日、ジカ熱の症例の要件(表)を提示しており、これら全ての要件に該当し、他の感染症・病因によることが明らかでない場合はジカ熱を鑑別診断の対象とするよう求めている。
25日には、ブラジルから帰国した川崎市の10代の男子高校生の感染が確認された。ジカ熱の輸入症例としては4例目で、昨年5月に中南米で流行が始まって以降では初の輸入症例となった。
厚労省によると、患者は蚊に刺された記憶が明確でなかったが、診察した医師が皮疹からジカ熱を疑い、保健所に届けたことで診断につながったという。
これを受け、塩崎恭久厚労相は26日の会見で、患者発見までの詳細な経緯を臨床現場に周知する意向を示した。近日中に日本医師会などを通じて、全国の医療機関に情報共有が図られる見通しだ。
臨床現場での届出の参考資料について、厚労省担当官は「当面の間は事務連絡(表)が参考となるが、診療の手引きも早期に策定したい」と話している。
●妊婦には渡航延期を推奨
ジカ熱はネッタイシマカとヒトスジシマカが媒介する感染症で、3月1日現在、中南米・カリブ海地域、オセアニア太平洋諸島、アジア(タイ)、アフリカ(カーボベルデ)が流行地域とされている。
国立感染症研究所によると、ジカ熱の症状はデング熱などに比べると軽症で、感染者の8割は不顕性感染とされている。
それでも世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」を宣言したのは、中南米で胎児の小頭症の増加が報告されているからだ。米疾病対策センター(CDC)も性交渉感染が疑われる患者の確認を発表。発症から62日後に精液中からウイルスが検出された例も報告されている。
小頭症の原因には風疹など他の要因も考えられ、ジカウイルス感染との因果関係やウイルスの精液中の残存期間については現在、各国機関が調査中だ。
ただ、厚労省と外務省は妊婦には流行地域への渡航延期を推奨し、流行地域から帰国した男性でパートナーが妊娠中の場合には、症状の有無に関わらず性行為の際にコンドームの使用を呼び掛けている。
●防蚊対策、ワクチン開発を促進
蚊の活動期に備え、国内対策の強化も進んでいる。厚生科学審議会感染症部会は26日、ジカ熱を『蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針』に追加することで一致した。
同指針は、デング熱など蚊媒介感染症に対する(1)サーベイランスの強化、(2)防蚊対策の強化、(3)医療関係者等への情報提供、(4)ワクチン・治療薬の研究開発の促進─などを定めたもので、指針への追加により、法的根拠に基づきジカ熱対策が強化される。
【記者の眼】ジカ熱の胎児への影響には国民の関心も高く、臨床医は避妊に関する助言を求められる場面もあるだろう。ただ、同じく小頭症の恐れのある風疹やトキソプラズマ症への注意と予防も忘れないようにしたい。(F)