▼2015年10月にスタートする予定の医療事故調査制度に現場から不安の声が上がっている。今国会に提出されている医療・介護総合確保推進法案に制度創設が盛り込まれたが、具体的な制度の中身が分からないことが大きな理由だ。
▼その1つが調査対象に死産が含まれていること。法案では調査対象となる医療事故について「医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者がその死亡又は死産を予期しなかったもの」としているが、制度の骨格を決めた厚労省検討部会の報告書では死産について明記しておらず、死産の取り扱いについて議論はしていなかった。
▼日本の自然死産は年間約1万人に上る。このうち、どのような死産が医療事故となるのか。例えば、羊水穿刺の胎児喪失率(流産や死産)は0.3~0.1%程度と言われている。この発生確率は、果たして「予期しうる」のか「予期せぬ」のか。現在行われている国会審議で厚労省は、具体的な制度設計に関しては、法案成立後に作成するガイドラインで示すとの説明を繰り返すばかりだ。
▼制度の運用にあたってガイドラインの中身が極めて重要な意味を持つが、現在、その議論が厚生労働科学研究班で非公開のもと行われている。班長は全日本病院協会の西澤寛俊会長が務め、班員には日本医師会など各医療団体の代表者のほか、弁護士や患者団体の代表者が参加しているもようだが、その班員名も正式には公開されていない。研究班は今年3月の事前勉強会を皮切りに、毎月2回のペースで会合を開催し、制度の具体化に向けて1年間検討。ここで作成されたガイドライン案をもとに、厚労省が正式にガイドラインを作成する。厚労省医政局総務課医療安全推進室によると、厚労省での検討も公開の場で行う予定はないという。
▼医療事故の原因究明・再発防止を目指す医療事故調査制度の創設は長年医療界が求めてきたものだが、具体的な制度設計を巡っては医療界の中でもさまざまな意見があり、課題も多い。それ故、詰めの議論には慎重さが求められるが、それにもかかわらず、肝心の中身の議論が非公開では、現場の医療者の不安は強まるばかりだ。医療者・患者双方が納得できる制度とするためには、議論の過程も含めて公にし、幅広い視点から合意形成を図ることが必要不可欠だ。