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武蔵村山だけの問題ではない [お茶の水だより]

No.4735 (2015年01月24日発行) P.12

登録日: 2015-01-24

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▼西アフリカでのエボラ出血熱の流行は依然として続いており、国内でも疑い患者が累計5人発生した。そんな中、エボラウイルスを含む危険性の極めて高い病原体を取り扱えるバイオセーフティーレベル4(BSL-4)施設の稼働を巡り議論が起こっている。国内には東京・武蔵村山市の国立感染症研究所と茨城・つくば市の理研バイオリソースセンターに要件を満たした施設があるが、病原体の漏出を懸念する住民の反対から両施設とも稼働を見合わせている。
▼BSL-4の環境がない現状でもエボラへの感染の有無は確かめられる。エボラの検査法には、リアルタイムPCR、ELISA、検体からのウイルス分離などがあるが、ウイルス分離以外では検体の処理中にウイルスが不活化されるため、季節性インフルエンザなどを扱うBSL-2でも可能だ。ただ、確定診断や治療薬の研究開発にはBSL-4の稼働が不可欠となる。
▼厚生労働省は20日、国立感染研の施設運営について武蔵村山市の住民らと話し合う協議会の初会合を開いたが、住民代表からは「住宅街に囲まれたこの場所がBSL-4にとって理想的とは思えない」などの声が上がり、不安の根強さが窺われた。一方、地元医師会の会長は、「エボラの疑い患者が出ている以上、迅速な診断を行うための施設の必要性は認めざるをえない」と話す。それでも「あくまで危機対応に限った話だ」と、研究目的での運用には否定的だ。
▼BSL-4での研究については学術界からの強い要望がある。危険な病原体の基礎研究を行う日本人はこれまで海外施設で研究してきたが、同時多発テロを機に他国の研究者による施設利用は原則禁止となっている。これを踏まえ、日本学術会議は昨年、国内のBSL-4稼働の必要性を強く訴える提言を発表した。
▼現在、全国10の大学・研究所がBSL-4施設の建設を計画している。その1つ、長崎大の担当者は、感染研のBSL-4が稼働したとしても「施設の点検中にエボラが発生する可能性もあるため、国内で複数のBSL-4が相補的に稼働することが望ましい」と話す。複数稼働に関しては、自民党委員会も同趣旨の提言を行っている。BSL-4の運用は、武蔵村山市民のみが向き合う問題とは限らないのだ。
▼10機関の計画では、施設運用開始は最速で2023年。計画が進めば近い将来、住民との協議会が各地で開かれ、地域の医師は学識者として参加を要請されるだろう。BSL-4の必要性や安全性について、各地の医師が考えなければならない時期に来ている。

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