▼今年10月の医療事故調査制度のスタートを控え、現在、各地で研修会が開かれている。5月に発出された運用指針に基づき開催された四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の研修会では、個々の医療機関の判断を重視した指針の内容に不安の声が上がった。例えば、医療事故の定義について、参加者は「全国で解釈にバラツキが出るのではないか」と懸念した。
▼医療事故の再発防止、医療安全の確保を目的とした医療事故調査制度の議論の歴史は長い。2008年に厚労省が発表した「医療安全調査委員会設置法案大綱案」は、第三者機関が医療事故死を調査する仕組みで、警察に通報するルートも設けられていたことから医療界の一部から強い反対意見が出され、頓挫した。こうした経験を踏まえ今回の制度は、警察への通報ルートをなくし、医療界の自律的な取り組みとして医療事故の調査・分析を行うことになった。また運用指針を巡る議論では、厚労省の担当課長が「これだけ緊張した検討会は初めて」と吐露するほど激しく意見が対立。最終的に医療界の主体性が尊重される内容となった。
▼冒頭の質問に対し、全日病の西澤寛俊会長は「同じような患者でも施設の状況で判断が変わることはありうる」とした上で、「1つ1つの事例に医療機関が真剣に対応してほしい」と要請。日本医療法人協会のガイドラインも「医療安全は個々の現場の実情に応じて推進することが肝要で、標準化すると現場との間に齟齬が生じる」と指摘する。
▼新制度が始まるといっても医療安全の重要性は制度の開始前も後も変わらない。日頃の主体的な医療安全対策を土台とし、重層的な医療安全の確保、再発防止の体制構築を目指したい。