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ゲノム編集の衝撃は続く [お茶の水だより]

No.4785 (2016年01月09日発行) P.9

登録日: 2016-01-09

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▼米科学誌『Science』は、2015年の科学界最大の進歩として「ゲノム編集」を選んだ。DNA2本鎖を切断し、ゲノム配列上の任意の箇所を選んで改変できる「CRISPR/Cas9法」という新手法が登場し、これを用いてマラリア媒介蚊の繁殖を抑制するなどの画期的成果が報告されているからだという。
▼『Science』はゲノム編集のヒト応用への期待も述べているが、昨年には中国の研究チームがCRISPR/Cas9法でヒト受精卵を改変したと発表し、ゲノム編集が抱える生命倫理上の問題も提起された。
▼あらゆる遺伝情報を、あたかも文章のように「編集」するという言葉は、少々不気味な響きを伴う。実際には熟達した技術が必要とはいえ、任意の遺伝子を改変する手法の確立で「デザイナーズベビー」への警戒が高まるのは必然と言える。それでは、ゲノム編集のヒトでの臨床利用に向けた研究は「禁忌」として規制されてしまうのか。
▼12月に米英中の学術団体が米国で開いた「ヒトゲノム編集国際会議」は、基礎・前臨床研究については「明らかに必要で、続行すべき」とした上で、「研究過程で初期のヒト胚および生殖細胞にゲノム編集を施した場合、それらの細胞を妊娠に用いてはならない」とする声明を発表した。また、研究は社会的な合意を前提とし、規制当局による監視下でのみ進められるべきで、それが達成されない段階での生殖細胞編集の臨床利用は「無責任」と断じた。
▼毎日新聞(12月15日付電子版)の報道によると、国際会議に参加した国内の研究者が帰国後、内閣府調査会で、適切な研究を進めるために法整備を含む早急な対応を求めたという。日常診療に直結する話ではないが、医学の根幹に関わる問題として、ゲノム編集の規制を巡る議論は今年も続くだろう。

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