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頸部内頸動脈狭窄症に対する頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント

No.4750 (2015年05月09日発行) P.53

吉田和道 (京都大学大学院医学研究科脳神経外科講師)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

狭窄が進行した頸部内頸動脈狭窄症に対する治療法として,頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)と頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)があります。近年,わが国ではCASの割合が年々高くなってきていると言われています。世界的にみたCEA/CASの割合の現状,およびプラークの性状から考えられる適切なCEA/CASの棲みわけについて,京都大学・吉田和道先生にご回答をお願いします。
【質問者】
川島明次:東京女子医科大学八千代医療センター 脳神経外科講師

【A】

1990年代後半よりCAS件数は緩徐に増加してきましたが,CEAに対するCASの非劣性を証明した2004年のSAPPHIRE研究(文献1)の発表を受けて,世界的に普及が進みました。米国では,頸動脈血行再建に占めるCASの比率が1998年時点でわずか2.8%であったのが,2008年には12.6%まで増加しています。同じくCASの非劣性を証明した2010年のCREST研究(文献2)の影響で,さらにCASの比率が上昇しているものと予想されます。それでも,2005年の時点でCAS件数とCEA件数が逆転したわが国の現状とはかなり様相が異なります。
症候性頸動脈狭窄に対するCASについては,症候性病変のみを対象としたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)やCREST研究のサブ解析においても,現時点でCASの非劣性は証明されていません。2011年に欧米各国で発表されたガイドラインを比較すると(文献3),症候性病変に対するCASが,米国ではCEAの代替療法として推奨されている一方で,欧州ではCEA高危険群に限定するなど,その実施により慎重な対応を求める傾向にあります。
CASについては日進月歩でデバイスの改良が進んでおり,さらなる治療成績の向上も期待されますので,最善の治療法を選択するためには,症例ごとの多角的なリスク評価とともに,最新のエビデンスの継続的な検証が必要です。
プラーク性状から考えられるCEA/CASの棲みわけについて,まず,CEAの場合はプラーク自体を除去する治療ですので,基本的にプラーク性状は治療成績に影響しません。一方でCASについては,粥腫やプラーク内出血で構成されるソフトプラークは,狭窄部の拡張時に遠位塞栓症をまねく危険性が高いため,治療リスクの面で不向きと考えられます。
フィルター型やバルーン型など種々の遠位塞栓防止デバイスが普及していますが,大量のソフトプラークを有する病変はやはりCAS高危険群と認識すべきです。手技自体は無事終了しても,亜急性血栓症など遅発性合併症も危惧されます。また,全周性に高度の石灰化を認める場合は,十分な拡張が得られないため,治療の有効性という点でやはりCASは適しません。
このようなCASの危険例や無効例を診断するために,プラーク性状評価が重要であり,超音波検査,CTアンギオグラフィー,MRIプラークイメージなどが利用されます。それぞれのモダリティに長所・短所がありますので,特徴を活かした多角的評価が有効です。
たとえば,広汎な石灰化の内部にソフトプラークを有する病変は,危険性・有効性双方の観点から,最もCASに不向きであると考えられますが,CTアンギオグラフィーの元画像で石灰化が高吸収域として明瞭に描出され,MRIプラークイメージのT1強調像で低信号を呈する石灰化の内部にプラーク内出血を示唆する著しい高信号を確認できれば診断可能です。

【文献】


1) Yadav JS, et al:N Engl J Med. 2004;351(15):1493-501.
2) Brott TG, et al:N Engl J Med. 2010;363(1):11-23.
3) Paraskevas KI, et al:J Vasc Surg. 2012;55(5): 1504-8.

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