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心房細動に対する左心耳閉鎖栓の有効性

No.4751 (2015年05月16日発行) P.54

原 英彦 (東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 准教授)

登録日: 2015-05-16

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

心房細動における抗凝固療法については新規抗凝固薬を含め,既に有効性を示すデータが示されています。しかし,出血リスクや高齢者への投与など問題点も指摘され,結論は出ていないところです。一方,欧米で経皮的に左心耳を閉鎖することで脳梗塞のリスク低減および抗凝固薬の中止が可能との発表があります。生涯にわたる抗凝固薬の投与と1~2時間の経皮的治療とを比較すると,結論は自明のように思われますが,この治療の特徴と現状について,東邦大学医療センター大橋病院・原 英彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
細川 忍:徳島赤十字病院第二循環器内科部長

【A】

非弁膜症性心房細動患者における経皮的左心耳閉鎖療法は,2001年から欧州で開始されました。その結果,閉鎖栓を用いて左心耳を閉じるという方法がワルファリンと同様に脳梗塞予防効果を示すというデータが出されてきました(ワルファリンは中止可能となり,抗血小板薬1剤のみ服用)。
これは心房細動患者の血栓の9割が左心耳内に生じるため,左心耳閉鎖といった局所治療が功を奏するというコンセプトを証明したものです。心臓外科手術で左心耳を術中に結紮すると脳梗塞が減少するというコンセプトと同様と言えるでしょう。
新規抗凝固薬が登場するまでの間にゴールドスタンダードとして用いられたワルファリンと経皮的左心耳閉鎖栓の有効性と安全性に関する大規模ランダム化比較試験が2007年に発表され,閉鎖栓治療のワルファリンとの非劣性が証明されました(PROTECT-AF試験)。また,そのPROTECT-AF試験の4年後のフォローアップでは全死亡,心血管死亡のどちらのエンドポイントも経皮的左心耳閉鎖栓群で有意に減少していたため,長期間フォローすればするほど,全身抗凝固療法よりも閉鎖栓による局所治療が有効かつ安全であることが証明されたわけです。
しかしながら,この臨床試験での初期の安全性イベント(周術期の心嚢液貯留や心タンポナーデ)が予想より多かったため,欧州,カナダ,アジア諸国では閉鎖栓は承認ずみですが,米国,日本では未承認のままです(2014年現在)。また,この治療方法は心房細動による血栓塞栓症の予防治療となるため,侵襲的操作に伴う合併症をいかに減らすかということが重要になってきます。幸い,そういった周術期安全性イベントにはラーニングカーブと言われるものがあり,最近行われた臨床試験ではPROTECT-AF試験よりも有意に周術期安全性イベントは減少しました。
長期抗凝固療法は非常に有効で,特に最近用いられている新規抗凝固薬は,ワルファリンに比べて出血性合併症も減少しました。しかし,特に75歳以上といった高齢者においては出血性合併症の頻度も増え,かつ臓器予備能の低下により新規抗凝固薬の処方さえ行いにくいのが現状です。経皮的左心耳閉鎖栓により,生涯必要な抗凝固薬を中止可能とし,生命に危険のある出血イベントのみならず,出血による著しいQOLの低下を防ぐことができます。この局所治療が早期に国内に導入されることを願っています。

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