【Q】
症候性もやもや病に対する治療としては,内科的管理に加えて, 種々の血行再建術が広く行われています。わが国で発見された疾患であり,アジア人に多いとされていますが,MRIの普及に伴って,無症候性もやもや病が診断される機会が今後ますます増えていくものと予想されます。
無症候性もやもや病への対応について,小児例と成人例での違いも含め,東北大学・藤村 幹先生のご回答をお願いします。
【質問者】
吉田和道:京都大学大学院医学研究科脳神経外科学講師
【A】
もやもや病は,両側内頸動脈終末部,前および中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し,その付近に異常血管網の発達を認める原因不明の疾患として知られています。本疾患は東洋系に多く,現在,日本国内の患者数は約7700人,発生率は人口10万人当たり0.54人と推定されている稀な疾患です。診断にはかつては脳血管撮影が必須でしたが,画像診断の進歩により,現在はmagnetic resonance imaging (MRI)とmagnetic resonance angiography (MRA)で確定診断可能となりました。
脳虚血症状を有するもやもや病に対する浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術に代表される頭蓋外内血行再建術は有効な治療法として確立しています(「脳卒中治療ガイドライン2009」)。最近では,わが国における多施設共同研究(Japanese Adult Moyamoya trial:JAM trial)の結果も受けて出血発症例の一部に対しても血行再建術の適応が広がりつつあるのが現状です。
一方,脳ドックなどによるMRI/MRAが普及しているわが国においては,無症候性もやもや病の診断機会が増えていますが,その治療方針については議論もあり,現在わが国ではAMORE(Asymptomatic Moyamoya Registry)研究という多施設共同研究による無症候性もやもや病の自然歴の検証が進められています。
当該施設では原則として,無症候例,あるいは無症候側に対しては定期的MRI/MRA(6カ月~1年ごと)による経過観察を行っています。動脈硬化性の閉塞性脳血管障害と異なり,もやもや病においては鈴木分類として知られる脳血管撮影所見に示されるような内頸動脈(internal carotid artery)系から外頸動脈(external carotid artery)系に血流依存を変換する自己代償機構(IC-EC conversion)が内蔵されていると考えられているため,無症候例においては外科的治療介入なしにこの変換を完遂できる可能性があると考えられるからです。
一方,経過観察中に脳虚血症状(一過性脳虚血発作や脳梗塞)を呈した場合は速やかに脳循環動態の評価を行い,症状を説明する脳循環不全が証明される場合には頭蓋外内血行再建術を行っています。無症候性の脳梗塞など,画像上の変化がみられた場合も脳循環動態の評価による病態把握が重要と考えています。