株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

妊婦の無症候性細菌尿への対応

No.4753 (2015年05月30日発行) P.60

宮﨑博章 (小倉記念病院婦人科副部長/感染管理部副部長)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-12-19

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

無症候性細菌尿は,“Williams Obstetrics”によれば,持続性に尿中に細菌が増殖しているが症状がない状態とされています。妊婦の無症候性細菌尿は,無治療で経過をみた場合,腎盂腎炎へと進行し,早産の危険性を高めることから,スクリーニングおよび治療の適応となると思いますが,具体的な方法はどのようにしたらよいでしょうか。また,原因菌は大腸菌が最も多いと思いますが,最近問題となっている基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生大腸菌が無症候性細菌尿から検出された場合には,どのような抗菌薬を選択すべきでしょうか。
小倉記念病院・宮埼博章先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岩破一博:京都府立医科大学大学院女性生涯医科学准教授

【A】

無症状にもかかわらず,尿中の細菌数が105 /mL以上の状態を無症候性細菌尿と診断します。検査としては,妊娠初期と後期に尿培養を行い,細菌を同定して薬剤感受性試験を行う必要があります。無症候性細菌尿を有する妊婦では,急性腎盂腎炎が2~7%にみられるとされ,特に尿路感染症の既往があれば起こしやすく,細菌尿を伴わない妊婦では1%に発症するのに対して,細菌尿を伴う場合は20%と高率に認められるため,治療が必要と思われます。
培養で認められる細菌のほとんどが,グラム陰性桿菌で,特に70~90%が大腸菌のため,治療薬は,妊娠に影響がなく一般的な大腸菌に感受性がある経口抗菌薬が用いられます。
処方例1:アモキシシリン(サワシリンRカプセル250)1回1カプセル,1日4回,3~7日間投与
処方例2:アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチンR配合錠250RS)1回1錠,1日3~4回,3~7日間投与
しかし,ご質問のように,ESBL産生大腸菌の検出頻度が増しており,当院では外来から検出される大腸菌のうち,30%程度がESBL産生菌です。わが国における妊婦での尿路感染症の中でESBL産生大腸菌の正確なデータがない現状から,エンピリックにおいて,ESBL産生大腸菌をどのようにカバーするか,難しい問題です。重要なのは,ESBL産生大腸菌は,経口セフェムやペニシリンに耐性があり,アモキシシリンでは効果が期待できず,経口抗菌薬の治療として確立されたものはないということです。
妊娠に影響がなく,ESBL産生大腸菌に有効性が期待できる抗菌薬として,ホスホマイシンがあります。臨床現場で使用頻度が低いため,大腸菌に対する薬剤感受性が保たれている可能性があります。しかし,使用頻度が高くなると耐性化が懸念されます。
処方例1:ホスホマイシン(ホスミシンR錠)1回1g(力価),1日3回,2日間投与
もう1つのオプションとして経口ペネム薬であるファロペネムが考えられます。海外での使用経験が少なく,明らかなエピソードがありませんが,ESBL産生大腸菌に感受性がある場合は有効性が期待できます。しかし,副作用として下痢があり,妊娠中の投与に対して未確認な点があります。
処方例2:ファロペネム(ファロムR錠)1回300mg(力価),1日3回,7日間投与
急性腎盂腎炎などの重篤な感染症の場合は,メロペネムなどのカルバペネム系薬が適応となります。セフメタゾールなどのセファマイシン注射薬も考えられますが,こちらもデータがなく,今後の検討が必要です。いずれにしても,注射による投与となるため,外来投与が問題となります。

関連記事・論文

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top