【Q】
無症候性細菌尿は,“Williams Obstetrics”によれば,持続性に尿中に細菌が増殖しているが症状がない状態とされています。妊婦の無症候性細菌尿は,無治療で経過をみた場合,腎盂腎炎へと進行し,早産の危険性を高めることから,スクリーニングおよび治療の適応となると思いますが,具体的な方法はどのようにしたらよいでしょうか。また,原因菌は大腸菌が最も多いと思いますが,最近問題となっている基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生大腸菌が無症候性細菌尿から検出された場合には,どのような抗菌薬を選択すべきでしょうか。
小倉記念病院・宮埼博章先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岩破一博:京都府立医科大学大学院女性生涯医科学准教授
【A】
無症状にもかかわらず,尿中の細菌数が105 /mL以上の状態を無症候性細菌尿と診断します。検査としては,妊娠初期と後期に尿培養を行い,細菌を同定して薬剤感受性試験を行う必要があります。無症候性細菌尿を有する妊婦では,急性腎盂腎炎が2~7%にみられるとされ,特に尿路感染症の既往があれば起こしやすく,細菌尿を伴わない妊婦では1%に発症するのに対して,細菌尿を伴う場合は20%と高率に認められるため,治療が必要と思われます。
培養で認められる細菌のほとんどが,グラム陰性桿菌で,特に70~90%が大腸菌のため,治療薬は,妊娠に影響がなく一般的な大腸菌に感受性がある経口抗菌薬が用いられます。
処方例1:アモキシシリン(サワシリンRカプセル250)1回1カプセル,1日4回,3~7日間投与
処方例2:アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチンR配合錠250RS)1回1錠,1日3~4回,3~7日間投与
しかし,ご質問のように,ESBL産生大腸菌の検出頻度が増しており,当院では外来から検出される大腸菌のうち,30%程度がESBL産生菌です。わが国における妊婦での尿路感染症の中でESBL産生大腸菌の正確なデータがない現状から,エンピリックにおいて,ESBL産生大腸菌をどのようにカバーするか,難しい問題です。重要なのは,ESBL産生大腸菌は,経口セフェムやペニシリンに耐性があり,アモキシシリンでは効果が期待できず,経口抗菌薬の治療として確立されたものはないということです。
妊娠に影響がなく,ESBL産生大腸菌に有効性が期待できる抗菌薬として,ホスホマイシンがあります。臨床現場で使用頻度が低いため,大腸菌に対する薬剤感受性が保たれている可能性があります。しかし,使用頻度が高くなると耐性化が懸念されます。
処方例1:ホスホマイシン(ホスミシンR錠)1回1g(力価),1日3回,2日間投与
もう1つのオプションとして経口ペネム薬であるファロペネムが考えられます。海外での使用経験が少なく,明らかなエピソードがありませんが,ESBL産生大腸菌に感受性がある場合は有効性が期待できます。しかし,副作用として下痢があり,妊娠中の投与に対して未確認な点があります。
処方例2:ファロペネム(ファロムR錠)1回300mg(力価),1日3回,7日間投与
急性腎盂腎炎などの重篤な感染症の場合は,メロペネムなどのカルバペネム系薬が適応となります。セフメタゾールなどのセファマイシン注射薬も考えられますが,こちらもデータがなく,今後の検討が必要です。いずれにしても,注射による投与となるため,外来投与が問題となります。