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DIC治療の考え方

No.4755 (2015年06月13日発行) P.57

池添隆之 (高知大学医学部血液・呼吸器内科学講師)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の治療には,従来からヘパリン類,トラネキサム酸,合成プロテアーゼ阻害薬,新鮮凍結血漿などが使われてきましたが,施設や医師によってかなり使用法の違いがあったように思います。最近では遺伝子組み換えヒトトロンボモジュリン製剤(recombinant thrombomodulin:rTM)が多く使われているように思います。
最新のDIC治療の考え方について,敗血症など凝固系優位,急性白血病など線溶系優位の場合にわけて,高知大学・池添隆之先生のご教示をお願いします。
【質問者】
川端 浩:京都大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学講師

【A】

DICの病型は凝固優位型(臓器障害型)と線溶亢進型(出血型)の2つにわけて考えられることが多く,敗血症は前者の,急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は後者の代表疾患と考えられています。これまでDICに対する抗凝固薬の効果を比較検討した質の高い臨床試験が行われなかったことや,「DIC診療ガイドライン」なるものが存在しなかったことが,各施設で治療方法が大きく異なっていた原因と思われます。
(1)凝固優位型DICの治療
2009年に日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会より「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」が発表されました。この中で,アンチトロンビン(antithrombin:AT)製剤が最も高いレベルで推奨され,ついで合成プロテアーゼ阻害薬と低分子ヘパリンが推奨されています。しかしながら,いずれの薬剤もDICに対する有効性は無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)で示されていません。
一方,rTMは,このコンセンサスが作成された時点で,未分画ヘパリン(unfractionated heparin:UFH)を対照としたRCT中であったために,掲載されませんでした。
その結果が2007年に論文報告され,それによると,DICの離脱率と出血症状の改善のいずれにおいても,rTMのUFHに対する優越性が示されました(文献1) 。また,出血に関する有害事象の発生頻度はrTMで有意に低い結果となっています。さらに,この試験に含まれる80例の感染症を基礎疾患とするDIC患者のみを対象としたサブ解析で,rTM治療群で治療開始28日目の生存率の改善が示されました(文献2)。
rTMのレクチン様領域には,抗炎症作用が存在することが知られています。つまり,rTMによる,敗血症をはじめ,重症感染症を基礎疾患として発症するDIC患者の生命予後の改善が期待されています。国内の市販後調査3548例(感染症2516例,造血器腫瘍1032例)の検討でも,rTMのDICに対する効果と安全性が示され(文献3),2014年に,その推奨度がエキスパートコンセンサスに追補されました。
(2)線溶亢進型DICの治療
基礎疾患の治療と輸血基準に基づいた血小板と新鮮凍結血漿の補充が必須です。出血傾向が重篤な場合は,ヘパリン類の使用は避けるべきです。合成プロテアーゼ阻害薬を使用する施設が多いようですが,その効果を支持するエビデンスは存在しません。出血症状が強い場合でも,トラネキサム酸による抗線溶療法は原則禁忌です。このタイプのDICにも強力な過凝固状態が存在するため,トラネキサム酸を使用すると血栓塞栓症の発症リスクが増加するからです。
APLでは,その治療薬である全トランスレチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)がDICも改善させることが知られています。過凝固を惹起する組織因子に加え,プラスミノゲンをプラスミンに効率よく変換し,線溶亢進を誘導するアネキシンⅡという膜蛋白をAPL細胞が豊富に発現しており,ATRAはこれらの発現を減弱することで過剰な凝固と線溶亢進の両者を緩和すると考えられています(文献4)。
最近,rTMがアネキシンⅡの発現を抑制し,抗線溶作用を発揮することが報告されました。また,APLに合併するDICに対するrTMの有効性と安全性を示す後方視的研究や症例報告が相次いでいます。rTMは,現段階でAPLに合併するDICに対する治療の第一選択とすべき薬剤と考えられます。

【文献】


1) Saito H, et al:J Thromb Haemost. 2007;5(1): 31-41.
2) Aikawa N, et al:Shock. 2011;35(4):349-54.
3) Mimuro J, et al:Thromb Res. 2013;131(5):436-43.
4) Ikezoe T:Int J Hematol. 2014;100(1):27-37.

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