【Q】
限局性前立腺癌に対する根治療法として,根治的前立腺摘除術(手術)と放射線治療があります。
手術後に再発した場合は救済放射線治療が可能ですが,放射線治療後に局所再発した場合は,内分泌療法以外にどのような救済治療が可能でしょうか。その方法と治療成績について,北里大学・佐藤威文先生のご教示をお願いします。
【質問者】
横溝 晃:九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野准教授
【A】
限局性前立腺癌に対する放射線治療後の再発の場合,遠隔転移症例だけでなく,局所再発に対しても,一般的に救済内分泌療法が広く選択されています。しかし,近年の画像診断の精度や医療機器の開発により,放射線治療後の局所再発に対する新たなアプローチが確立されつつあります。
そのストラテジーは前立腺の再発した局所のみを治療するfocal therapyと,前立腺全体を治療するwhole gland therapyに大別されます。前者の治療モダリティーとしては,イリジウム192高線量率組織内照射〔high dose-rate(HDR)brachytherapy〕やヨウ素125永久挿入密封小線源療法〔low dose-rate(LDR)brachytherapy〕,凍結療法(cryotherapy)や高密度焦点式超音波治療法(high intensity focused ultrasound:HIFU)などが挙げられ,後者の治療モダリティーとしては,上記に加えて前立腺全摘除術が挙げられます。
focal therapyのメリットとしては,再発した局所のみの治療となるため,尿道や直腸への影響が軽微で,治療後の尿禁制などを中心とした術後QOLが優れている点が,デメリットとしてはmultifocalな局所再発の場合は適応になりえないなど,その条件が制限される点が挙げられます。また,whole gland therapyの場合,再度の根治が期待できる反面,デメリットとしては前立腺全体に治療侵襲が加わるため,治療後の尿禁制や直腸への影響・損傷などのリスクを有している点が挙げられます。
focal therapyおよびwhole gland therapyのいずれにおいても,遠隔転移を有さず,病理学的に前立腺局所の再発であることが条件となります。現在,放射線治療後の局所再発診断として,テンプレートガイド下などによるmapping biopsyの病理診断が世界的にも広く施行されており,さらに次のステップとなる高精度診断として,MRIの拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)と前立腺エコーとをfusionさせて生検を行うMRI-TRUS(transrectal ultrasound) fusion real-time targeted prostate biopsyも,国内で臨床応用が開始されています。
ただ,生検の施行時期の注意点として,癌細胞は放射線照射により,有糸分裂後の細胞死が誘導され,限られた回数の細胞分裂を行った後で死滅すると考えられているため,照射直後の病理所見で再発を評価することは困難とされています。一般的には照射後24~36カ月以降において,病理学的に評価できるとされます。
また,上記focal therapyを中心とした新しい治療の長期成績はまだ明らかとなっておらず,さらなるフォローアップの蓄積を必要としています。