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高血圧を伴う糖尿病患者の降圧療法

No.4757 (2015年06月27日発行) P.56

田中正巳 (慶應義塾大学医学部内科学講座 腎臓内分泌代謝内科特任講師)

登録日: 2015-06-27

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

高血圧を伴う糖尿病患者の降圧薬の選択についてはまずレニン・アンジオテンシン(renin-angiotensin:RA)系阻害薬,それでも不十分な場合はRA系阻害薬の増量か,カルシウム(Ca)拮抗薬あるいは少量のサイアザイド系利尿薬の併用とされています。しかし,サイアザイド系利尿薬はカリウム(K)喪失による膵β細胞機能障害を有し,耐糖能を悪化させることが知られています。Ca拮抗薬と同列に扱ってよいでしょうか。効果と安全性に関するエビデンスについて,ご教示下さい。
【質問者】
長田 潤:済生会横浜市南部病院糖尿病・内分泌内科医長

【A】

「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)では糖尿病合併高血圧における降圧薬として,ARB/ACE阻害薬(angiotensinⅡ receptor blocker/angiotensin converting enzyme inhibitor)を第一選択薬として推奨しています。しかし,糖尿病合併高血圧は一般に治療抵抗性であり,単剤では降圧目標達成が困難です。その場合,ARB/
ACE阻害薬増量のほかに,Ca拮抗薬かサイアザイド系利尿薬を併用するという手段がありますが,両薬剤の優劣に関するエビデンスは少ないのが現状です。
糖尿病患者を対象として両薬剤の優劣を検討した大規模臨床試験としてGauging Albuminuria Reduction with Lotrel in Diabetic Patients with Hypertension(GUARD)(文献1)とAvoiding Cardiovascular Events through Combination Therapy in Patients Living with Systolic Hypertension(ACCOMPLISH)糖尿病サブ解析(文献2)があります。
GUARDでは糖尿病性腎症におけるACE阻害薬との併用薬として,Ca拮抗薬と利尿薬を比較しました。蛋白尿減少には利尿薬,eGFR(estimated glomerular filtration rate)保持にはCa拮抗薬の併用が有利であることが示されましたが,その結果からどちらが優れた併用療法かを判断することはできません。
ACCOMPLISHは冠動脈疾患,末梢動脈性疾患,慢性腎臓病などを合併する高血圧患者を対象に,ACE阻害薬にCa拮抗薬あるいはサイアザイド系利尿薬を併用した際の有用性を比較した試験です。糖尿病患者を対象とした本試験のサブ解析では,Ca拮抗薬は利尿薬よりも心血管イベントを強く抑制したことが示されました。これだけですとCa拮抗薬のほうが優れた併用薬のように思えますが,ACCOMPLISHでは対象患者から心不全症例は除外されていました。また,Ca拮抗薬併用群,サイアザイド系利尿薬併用群のいずれにもループ利尿薬追加投与が認められており,これら要因が利尿薬併用群に不利に作用した可能性があります。
確かにサイアザイド系利尿薬はK喪失を誘因としてインスリン抵抗性を惹起し,糖尿病患者の血糖管理に不利である点は否めません。しかし,降圧利尿薬の副作用は用量依存性です。わが国のARB/利尿薬配合錠に含まれている利尿薬は,通常用量の1/4~1/2(ヒドロクロロチアジドは6.25 mgあるいは12.5mg,トリクロルメチアジドは1 mg)であり,この程度ならば耐糖能悪化の危険はそれほど大きくないと考えます。ARB/ACE阻害薬と利尿薬は,血清K濃度,インスリン感受性,RA系の活性などに与える影響が逆であり,両者の併用は降圧効果を増強して副作用を相殺することが期待されます。糖尿病合併高血圧患者では食塩感受性が亢進しており,また低レニン血症性低アルドステロン症であることが多いのですが,そのような場合,利尿薬が奏効します。
現時点ではARB/ACE阻害薬への併用薬としてCa拮抗薬と利尿薬のどちらが有利かを決めることはできず,有効性,安全性の観点から両者を同等に第二選択薬とするのが妥当と考えます。2剤併用でも降圧効果が不十分な場合は,ARB/ACE阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬の3剤を併用することがJSH2014で推奨されています。

【文献】


1) Bakris GL, et al:Kidney Int. 2008;73(11):1303 -9.
2) Weber MA, et al:J Am Coll Cardiol. 2010;56 (1):77-85.

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