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インプラントを用いた放射線治療後の乳房再建

No.4767 (2015年09月05日発行) P.61

岩平佳子 (ブレストサージャリークリニック院長)

登録日: 2015-09-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

乳癌手術後の乳房再建手術に使用するシリコンインプラントが保険適用となり,過去に切除術および放射線治療を受けた多くの患者さんがインプラントによる再建術を求めて来院されています。放射線照射後のインプラントによる乳房再建では合併症率が増加する可能性があるため,そのような患者さんには自家組織による再建術を勧めますが,なかなか受け入れてもらえません。
これまでのご経験から,インプラントによる再建を勧めない症例があるのか,ある場合にその判断基準としてどのような点が重要と考えておられるのかを,ブレストサージャリークリニック・岩平佳子先生にお伺いしたいと思います。
【質問者】
多久嶋亮彦:杏林大学医学部形成外科教授

【A】

放射線科専門医によると,照射の感受性に対する遺伝子が存在し,その有無により照射後の皮膚状態はある程度わかるとされていますが,術前にその遺伝子を検査することは現実には不可能です。よって,まず放射線照射された皮膚の特徴を知ることが重要です。
照射された皮膚には3つの有害事象が起こっています。
(1) 皮脂腺,汗腺が照射により減少し,汗も脂も出なくなり皮膚の潤いがなくなる。
(2) 弾性線維が硬化し皮膚が伸びにくくなる。
(3) 血行障害が起きる。
この3つの程度が,人工物再建が可能かどうかのわかれ目になります。つまり,これらの要素が著しい場合は,皮膚を伸展させるためのティッシュエキスパンダーを挿入し,生理食塩水を注入しようとしても,皮膚が硬くて伸びなかったり,虚血状態になったりするのです。
初診時に皮膚の潤いはどうか,皮膚をつまめるか,血の巡りはどうかを診て,人工物再建の成否を判断して頂くとよいと思います。もし,いずれも思わしくない場合は,まずヒルドイドRソフトなどを使用して半年間患部をマッサージして頂きます。それでも皮膚が動かない場合は,人工物再建はあきらめて頂きます。
多少動くようになっても,皮膚伸展のスピードは非照射患者に比べてゆっくりと行い,量も少量ずつ注入し,途中で痛みや炎症を訴えたら抜水するなどの手間と時間がかかること,最悪の場合は伸展中に穴があいたり,インプラント入れ替え後に被膜拘縮を起こす可能性が約20%あり,その際には自家組織再建に切り替える必要があることを話しておくことが重要だと思います。

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